第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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心の底からすべてを呪った。 父親も継母も、黒い人形(ひとがた)も、昔の仲間も、高校の生徒も教師も、アタシに害を成す者すべてを憎み呪った。 人を殴る為だけに使ってきた木刀を、家の中で振り回しメチャクチャにした。 あれだけアタシを苛めた継母は泣きながら逃げていた。 父親もオタオタするだけで、アタシに何も言えない。 唯一可愛がってた妹が泣き出して、木刀を持ったまま家を飛び出したんだ。 外に出ればあっという間に黒い人形(ひとがた)に囲まれて、目隠しをして走っているみたいでさ。 それでもガチギレしてたからね、車も人も無視でひたすら走ったんだ。 死んでもいいと思った。 むしろそのほうがスッキリすんじゃないかって思ってた。 息が切れて、もう走れないって座り込んだそこは……重なる人形(ひとがた)の隙間から覗いたら懐かしい中学校だったんだ。 夜は遅いし、残業の教師すらいなそうで、アタシは壁を乗り越え中に入ったの。 どうせ行くトコはない、学校の中なら車も来ない。 ここで過ごすのが良いだろう。 だけどウザイ黒い人形(ひとがた)だけは、数がどんどん増えていく。 ____イライラする、 ____怒りで視界が紅くなる、 今までにないくらい腹が立った。 中学の頃、怒りを暴力に変換して誰彼構わず喧嘩を売ってきた。 今抱える怒りをなんとかしたいなら、コイツらと喧嘩するしかない。 暴力に飢えていたんだ。 誰かを殴った時に伝わる感触が懐かしくてたまらなかったよ。 黒い人形(ひとがた)達を思いっきり()る事が出来たら吐かなくて済むのにって、確かな殺意が脳ミソを侵食した____同時。 身体の奥から得体の知れない、強烈な力が沸き上がってくるのを感じたんだ。 それが何なのかは分からない。 複雑な事は好きじゃない、けれど確信は持てた。 これはコイツらをぶっ潰す為の力だ。 普段は殴りかかっても素通りしてしまう黒い人形(ひとがた)。 何故か今ならいける、って感じた。 その時、頭の中に言葉が降ってきた。 誰かの声が聞こえたんじゃなく、文字が降ってきたんだ。 【つラいの、くやシいの、おこルの、こわいノ、ナきたいの、ミジメなの、ヤサシクされたいの、てんテンてん、まだマダいっぱいあるよ、やよいはいっパイもってるヨ、カワイソウなやよいちゃん、カゾクのきらわれモノ、オトモダチもいなぁい、だれもやよいがスキじゃなぁい、でもチカラをもってるよ、チカラはやよいのタカラモノ、やよいをスクウもの、これがあればケンカができるよ、ツカッテゴラン】 頭の中に平仮名と片仮名の雨が降る。 なに今の……だけど考えたって分からない。 複雑な事、難しい事は嫌いだもの。 だけど単純なのは大好きだ。 握ったままの木刀は紫色に光りだし…… ____これくらい分かりやすいモノなら最高だ、 ____ツカッテゴラン、って言うのはコレの事だろう? 文字を誰が降らせたかは知らない。 だけどさすがにこの流れは分かるよ。 きっとこの光る木刀でなら、黒い人形(ひとがた)をぶっ飛ばせるはずだ。 それはアタシの予想を裏切らなかった。
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