第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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たぶんさ、元神候補は、自分達とアタシを重ねたんだ。 落ちこぼれでチカラ不足で弱くって。 まわりに嫌われてるアタシと、元神候補ってだけの脱落者は周りからバカにされる、似た者同士だ。 それに悪霊達はアタシだけじゃなくて、元神候補達にも嫌がらせしてたんだ。 嫌だと言ってるのに、生者への攻撃現場に連れ回し、何も出来ない非力さを嘲笑うの。 性格悪いよな、あ、だから悪霊なのか。 元神候補達は毎日アタシを見続けていた。 だからアタシの強い怒りの中に、更に強い霊力(ちから)があるのに気が付いてくれたんだ。 それは神になるのに足りない霊力(ちから)だった。 あれだけの霊力(ちから)があれば、悪霊達など一掃できるのに、アタシは全然気が付いていない。 ただただ悪霊を、家族を、環境を呪い、力の無い自分をも呪っているだけ。 誰にも助けてもらえない、自分しか頼れない、強くなるしかないとギラついているのに、心の底ではタスケテタスケテと泣いている。 元神候補達の気持ちが固まるのに、そう時間はかからなかったって。 どうせ何もしなければ、数十年現世を彷徨うだけ。 神になれなかった事を恥じ、黄泉の国に逝く気にもなれない。 だからって留まっていても悪霊達のオモチャにされるだけ。 一度は本気で神を目指したというのに、脱落し生者の誰も救えなかった。 だったら。 目の前の非力な女子高生を助けよう、そのせいで自分達の自我が無くなっても構わない。 元神候補達は、アタシの中の大きな霊力(ちから)に吸収される事を選んだ。 吸収されれば生者の頃の記憶は、すべて消えてなくなるけど、それでも気持ちは変わらなかった。 元神候補達が持つ、”候補になれる程度”の霊力(ちから)は統合されて、アタシを守護する為だけに存在する新たな者へと生まれ変わったの。 幼い頃のアタシの容姿を持って、そして自ら”ヤヨイ”と名乗って。 最初はアタシの頭の中だけに存在してたんだ。 だから中学校の校庭では、声だけしか降ってこなかったの。 頭の中に視える映像みたいなので、ヤヨちゃんは話しかけてくれた。 それから数年して、徐々にアタシの霊力(ちから)に馴染んでさ、更に数年かけてヤヨちゃんの欠片が生まれて霊体化したんだ。 その完成した姿がさっきのヤヨちゃん。 普段はアタシの中にいる。 用事がある時はさっきみたいに呼び出すんだ。 最初の出会いはアタシが15才の頃だ。 それからずっと、ヤヨちゃんは小さな女の子のまま。 アタシの姿で黒のワンピースに長い髪。 ヤヨちゃんは甘えん坊だから、アタシに髪をのばせ、お揃いの黒いワンピースを着てよっておねだりしたんだ。 そんなんで喜ぶならいいよって、それからずっと髪は長くて黒いワンピースだ。 ま、それでもたまにはワンピース以外を着るコトもあるけどさ。 そういう時にヤヨちゃんを呼び出すと、決まって機嫌が悪い。 お揃いのワンピースに着替えてこいと駄々をこねる。 だから仕事中は絶対に黒いワンピースを着るの。 途中でヤヨちゃんの霊力(ちから)を借りなくちゃならない時に、着替えてこいって言われても困っちゃうし。 まったくあの子はアタシにベッタリだ。 手は掛かるけど、元神候補達の霊力(ちから)とアタシの霊力(ちから)が合わさって、今のあの子はえげつない霊力(ちから)を持っている。 アタシを本当に助けてくれる……それと、助けてくれるのは霊力(ちから)関係だけじゃないんだ。 あの子がいたから家族の一員になれなくても、なんとか保っていられたの。 家を出て一人暮らしもウン十年だ。 そんな時も、淋しくなれば出てきてくれて、めちゃくちゃ甘えてくれるんだ。 本当は、きっと、アタシの方がめちゃくちゃ甘えてるんだろうな。
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