2367人が本棚に入れています
本棚に追加
◆
満天の星空。
大小二つのアメシストが、輝きを放ちながらゆっくりと降りてくる。
こちらに向かって弧を描き、高度が下がるにつれ徐々に輝度を上げながら、やがて視界は紫色の強い光にジャックされ、寂れた公園のすべての輪郭を消し去った。
眩すぎる空から背を向け俯いた数秒後。
恐る恐る薄目を開けると、アメシストの強い光は、藤色の優しい光に入れ替わっていた。
ほんのりと……甘い香りが漂ってくる。
優しくて、それでいてどこか胸の奥がソワソワしてしまうような。
そんな不思議な甘さの中、
『……ヤヨイ、ありがとう』
聞こえてきたのは、透き通る湖を思わせる声だった。
澄みきって穢れのない、どんなに荒んだ心も癒し浄化させてしまう……美しいピアノのハイキーボイス。
僕と弥生さんは、ほとんど同時に顔を上げたんだ。
二人とも息を飲んだよ。
そこに視たものは、奇跡そのものといっても過言ではなかった。
圧倒されて声が出ない、立っているだけで、存在だけで、一目視ただけで、どうしようもなく目も心も奪われる。
美しいという表現が陳腐なものになり果てる。
彼女はそれを越えている。
卵型の輪郭の中、金色と青色の二色の瞳が淡く輝いていた。
その二つの宝石を有する目は大きくて、くっきりとして彫りが深い。
スッとした鼻筋に、形の良い唇は瑞々しい果物を思わせる赤い色。
ホクロ一つない白い肌は陶器のようで、青みがかり透明感がある。
果てない大地に薔薇の花が咲き溢れたとしても、彼女には敵わない。
そして髪だ。
腰まで伸びる長い髪は艶のある黒色だった。
どういう仕組みになっているのか……その髪には宝石を散らしたようなたくさんの星が煌めいた。
髪に映る星々は時折斜めに宙を切る、あれは……流れ星だ。
この宇宙のどこかとリンクしているのかもしれない。
宇宙から……という訳ではないが、この時吹いた風は星の髪を遊ばせた。
風は髪だけでは飽き足らず、弥生さんとは対照的な純白の膝丈ワンピースの裾を揺らし、そこから伸びる形の良い真っ直ぐな脚が目に眩しかった。
腰の位置が明らかに高く、まるでモデルのような抜群のスタイル。
片耳だけにある赤いピアス、華奢な指には不釣り合いなゴツイリング、首元には細いチェーンに下げられた星の形のペンダント。
他に目立った装飾品はない。
そんな物は必要ないのだろうな……彼女自身が宝石そのものなのだから。
マジョリカさんと手を繋いでいたヤヨちゃんは、
【ついた げんせ ついた いきびとノくに まじょりか つかれた?】
と、コトバを降らせ、美しいその人を見上げてる。
マジョリカさんは、しゃがみこんでヤヨちゃんと目線を合わせると、
『ダイジョウブだよ。ウチ、つかれてない。ヤヨイ、ありがとね』
そう言って優しく微笑んだ。
すごいな……マジョリカさんが微笑んだだけで、まわりが一瞬明るくなった気がする。
すごく綺麗な女性だ。
あんなに綺麗な人が存在するという事が信じられない。
しかも……優しそうだな。
ヤヨちゃんを視る目が聖母のようだ。
大丈夫かな……ウチのお姉さまは。
圧倒されちゃって、いつもの調子が出ないんじゃないだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!