第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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◆ 満天の星空。 大小二つのアメシストが、輝きを放ちながらゆっくりと降りてくる。 こちらに向かって弧を描き、高度が下がるにつれ徐々に輝度を上げながら、やがて視界は紫色の強い光にジャックされ、寂れた公園のすべての輪郭を消し去った。 眩すぎる空から背を向け俯いた数秒後。 恐る恐る薄目を開けると、アメシストの強い光は、藤色の優しい光に入れ替わっていた。 ほんのりと……甘い香りが漂ってくる。 優しくて、それでいてどこか胸の奥がソワソワしてしまうような。 そんな不思議な甘さの中、 『……ヤヨイ、ありがとう』 聞こえてきたのは、透き通る湖を思わせる声だった。 澄みきって穢れのない、どんなに荒んだ心も癒し浄化させてしまう……美しいピアノのハイキーボイス。 僕と弥生さんは、ほとんど同時に顔を上げたんだ。 二人とも息を飲んだよ。 そこに視たものは、奇跡そのものといっても過言ではなかった。 圧倒されて声が出ない、立っているだけで、存在だけで、一目視ただけで、どうしようもなく目も心も奪われる。 美しいという表現が陳腐なものになり果てる。 彼女はそれを越えている。 卵型の輪郭の中、金色と青色の二色の瞳が淡く輝いていた。 その二つの宝石を有する目は大きくて、くっきりとして彫りが深い。 スッとした鼻筋に、形の良い唇は瑞々しい果物を思わせる赤い色。 ホクロ一つない白い肌は陶器のようで、青みがかり透明感がある。 果てない大地に薔薇の花が咲き溢れたとしても、彼女には敵わない。 そして髪だ。 腰まで伸びる長い髪は艶のある黒色だった。 どういう仕組みになっているのか……その髪には宝石を散らしたようなたくさんの星が煌めいた。 髪に映る星々は時折斜めに宙を切る、あれは……流れ星だ。 この宇宙のどこかとリンクしているのかもしれない。 宇宙から……という訳ではないが、この時吹いた風は星の髪を遊ばせた。 風は髪だけでは飽き足らず、弥生さんとは対照的な純白の膝丈ワンピースの裾を揺らし、そこから伸びる形の良い真っ直ぐな脚が目に眩しかった。 腰の位置が明らかに高く、まるでモデルのような抜群のスタイル。 片耳だけにある赤いピアス、華奢な指には不釣り合いなゴツイリング、首元には細いチェーンに下げられた星の形のペンダント。 他に目立った装飾品はない。 そんな物は必要ないのだろうな……彼女自身が宝石そのものなのだから。 マジョリカさんと手を繋いでいたヤヨちゃんは、 【ついた げんせ ついた いきびとノくに まじょりか つかれた?】 と、コトバを降らせ、美しいその人を見上げてる。 マジョリカさんは、しゃがみこんでヤヨちゃんと目線を合わせると、 『ダイジョウブだよ。ウチ、つかれてない。ヤヨイ、ありがとね』 そう言って優しく微笑んだ。 すごいな……マジョリカさんが微笑んだだけで、まわりが一瞬明るくなった気がする。 すごく綺麗な女性だ。 あんなに綺麗な人が存在するという事が信じられない。 しかも……優しそうだな。 ヤヨちゃんを視る目が聖母のようだ。 大丈夫かな……ウチのお姉さまは。 圧倒されちゃって、いつもの調子が出ないんじゃないだろうか。
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