第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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【まじょりか ばいばい】 少ない文字を降らせたヤヨちゃんは、クルリとターンしタタタと走り、大好きな弥生さんに抱っこをせがんだ。 マジョリカさんをじっと視つめていた弥生さんは、甘えるヤヨちゃんをすぐに抱き上げ頬ずりをする。 「おかえり、ヤヨちゃん。ありがとね。つかれただろ? 少し眠るといいよ」 弥生さんがそう言うと、うん、と首を縦に振り、ちっちゃな手で目を擦りながら砂のように消えた。 「弥生さん、ヤヨちゃんは?」 「黄泉の国との往復で疲れちゃったんだ。寝かすのにアタシの中に戻した。ダイジョウブだよ。ちょっと寝れば、ウルサイくらい元気になる」 そっか……良かった。 で、どうしよう。 空気重……てか、これってジャッキーさん呼んだ方が良いんじゃないの? でもな、マジョリカさんはきっと弥生さんと話したいんだろな。 だからわざわざ、弥生さん指名で口寄せを依頼したんだろうし。 怖いもの見たさで女性二人を盗み視れば、マジョリカさんも弥生さんも無言で視つめ合っている。 お互いになんと声を掛けていいか分からない、そんな所か。 ん……てか、この空気に僕が耐えられそうにない。 僕はそっとツーマンセルのリーダーに近づいて、 「弥生さん、ダイジョウブ? 固まってるよ?」 小さく声を掛けてみた。 石化解除なるか? 「あぁ、ごめん。大丈夫だ」 弥生さんは僕に軽く手を上げて、その手で自身のほっぺをペチペチ叩き、リセットを掛けている。 一方マジョリカさんは、宝石の美しさを崩さずに、ただただ弥生さんをジッと視つめていた。 美人の無表情ってなんかコワイ……ってゴメン、今は笑えないか。 株式会社おくりびの”斬り込み隊長”と言えば、社長か弥生さんだ。 さすがに今回は気後れしてそうだけど、なにかあったら僕が助けます。 頑張ってっ! 「マジョリカ……ビアンコさん?」 喋ったーーーーっ! マジョリカさんの名前言っただけだけど! 生まれたての小鹿くらいのヨタヨタっぷりだけど! 頑張ってるっ! 「あ……っと、本日は弊社をご利用いただきまして、誠にありがとうございます。え……っと、私、ご指名頂きました、株式会社おくりびの、おお、」 『大倉弥生、』 あ……マジョリカさん、被せてきたよ、しかも呼び捨て。 こんなん……いつもの弥生さんなら怒るよなぁ。 でも…… 「……そうです、大倉です。……こちら、同じく弊社霊媒師の岡村英海、本日は私共二人で担当させて頂きます」 弥生さん……よくぞキレずに頑張った(キレないのが普通?)。
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