2366人が本棚に入れています
本棚に追加
再び沈黙。
引きこもり時代のジャッキーさんではないが、一分一秒が長い。
無表情で弥生さんを視続けるマジョリカさん、その視線に捕らわれた弥生さんは、それでも真っ直ぐに、昼間水渦さんを見た時のような険は無く視つめ返していた。
次に言葉を発したのはマジョリカさんだった。
『担当……か。まるで他人事だね。ウチは大倉弥生に会いに来たんだよ。どうして死者のウチが、わざわざ知り合ったばかりの平蔵に無理を言ってまで、現世に口寄せを依頼したのか……その意味は解るよね?』
とてつもなく冷たい目をしていた。
冷たさの奥には怒りと悲しみを混ぜ合わせたような色が視え、唇は小刻みに震えている。
目が真っ赤なのは涙を堪えているのかもしれない。
『返事もなし? それとも後ろめたくて何も言えない? 自分が悪いコトしたって自覚があるから? 知ってるよね? ジャッキはさ、ウチの旦那さんだよ』
斬り込んできた。
何も言い返せない一言だ。
『結婚して八年になる……黄泉と現世でウチラは離ればなれだけど、ずっと上手くいってたんだ。ジャッキは現世に行く時に、ウチしか抱けない、ウチしか愛せない、それから浮気はしないって。ウチはそれをずっと信じてた』
ジャッキーさん、そんな事言ったんだ。
弥生さん、すごく辛そうだ。
『八年……ずっと逢えなくて淋しいよ。だけど、いつかは逢える、その時が来たらずっと一緒にいれるんだ、それまでは我慢だって。黄泉には沢山友達がいるし、仕事もあるから、忙しくしてれば大丈夫っだって、言い聞かせてた』
そうだよね。
淋しくて当然だよ。
友達と会ったり仕事を頑張って気を紛らわしてたんだ。
弥生さんを睨みつけるマジョリカさんは、それからしばらく黙っていた。
そして、
『ジャッキの顔は視れないけど……ま、毎晩……毎晩……お、お喋りして……眠る前は……、』
ああ……感情が込み上げてきたのか、途中言葉が途切れ途切れになる。
目はさっきよりも赤く、二色の瞳には涙が溜まり時折上を向く。
もう一言でも発すれば、瞬き一つでもしてしまえば、きっと涙が零れてしまう。
『……眠る前には……お互い「愛してる」って……そう……気持ちを、……あ、愛情を……確かめ合ってた、……淋しいけど……きっと、ジャッキは……現世で頑張ってる、せっかく生きてるんだ……す、好きな事いっぱい、してきてほしいと思ってた……だけど……なのに……』
最初こそ淡々と、冷静な態度だったマジョリカさんだったが、その仮面は早くも崩れ去った。
とうとう零れた涙はボロボロと、唇が、細い肩が、両膝が、気の毒になるくらい震えている。
両の手のひらで懸命に涙を拭っているのだが、その姿は儚くて頼りなく、まるで迷子の少女のようだった。
最初のコメントを投稿しよう!