第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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しゃがみこむ華奢な背中に、宇宙色だった髪が広がっている。 さっきまで真っ赤な星々が輝いていたのに、今はそれが無い、星が一つも視えない……まるで暗闇のようだ。 それも気になってしまい、初対面の女性の身体に触れるのは……と躊躇したものの、落ち着いてほしくて、小さな子供にするように背中をトントンとした。 『気安く触んないでよ!』とガチギレされるかもしれないけど、ガチギレする元気があるなら、それもまた良しだ。 トントンされるマジョリカさんは、小さな声で『アリガト……』と言った後、動きが止まり……そして、ゆっくりと顔を上げた。 『岡村……なんでウチにさわれるの? 岡村は死者なの……?』 あ、マジョリカさんって基本、誰でも呼び捨てなのね。 僕のコト”岡村”って……や、ちょっと良いかも(何が?)。 「いや、死者じゃないです、生きてます。これは僕のスキルなんです。僕はまだ霊媒師見習いで、大した事は出来ないんだけどね、放電と死者への物理干渉は可能なの。目もね、良いのか悪いのか……生者と死者の区別がまったくつきません。だから僕から視ると、マジョリカさんは生者となんら変わりがないんです。視た目もそうだし、普通に触れるし」 そっか、言ってなかったから驚かしちゃったか。 『そうなんだ……ジャッキも……岡村みたいに死者にさわれたら良かったのに、そしたら、きっと淋しくなかったよ、ウチもジャッキも……ジャッキにさわりたいよぉ……でも……ジャッキはもう……ウチと逢わないって……うぅ……うぅ……うわ……うわぁぁぁ』 !!!! ど、ど、ど、ど、ど、どーーーーーーーしよーーーーーーーーっ!!! 僕っ! 今っ!  社長バリに人生の運を消費しまくってるかもしれない!! 絶世の美女マジョリカさんが、僕の胸に頭頂部を押し付け(頭突き?)、号泣中なんすけどーーー!! ジャッキーに殺される!!(テンパって呼び捨て) ジャッキーにミンチにされるぅぅぅ!!(呼び捨て二回目) 尻もちをついた状態で、まるで銃で脅された時みたいに(経験ないけど)両手を高くあげ、とりあえず僕の貧弱で洗濯板な胸をレンタル中! こんなんで良かったらいくらでも使ってください!  なんだけど、緊張しすぎで、超レキナ!  あばばばばばばばばばばb! と、そこへ、ツーマンセルリーダーが、小さな声で耳打ちする。 「背中、トントンしてあげてよ、」 「え……でも……」 「マジョリカだって現世に来るの不安だったんだ。ジャッキーはバカな事言ったみたいだし、アタシがどんな女かも分かんないし、それでも勇気を出して、たった一人で来たんだよ。死者は現世の何にも触れる事は出来ない……それだって不安だ。まるで取り残されたみたいでさ。だからエイミーちゃんと普通に触れ合えてホッとしたんだ。安心出来たんだよ。だから、」 弥生さんは僕の手を取って、マジョリカさんの背中へと誘導する。 そして隣にしゃがみこみ、泣きじゃくるマジョリカさんの背中を、一緒にトントンした。 僕の手の甲を握り、弥生さんが直接マジョリカさんに触れる事は出来ないけど、それでも二人で一緒にトントンし続けたんだ。 マジョリカさんもそれに気付いてたはずなのに、弥生さんのトントンを拒むことはなかった。
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