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「少し落ち着きました?」
マジョリカさんの気が済むまで泣いてもらい、その間は弥生さんと二人でずっとトントンし続けていた。
『もう……ダイジョウブ』
小さな声で呟いて、立ち上がったマジョリカさんは顔色が悪く青ざめている。
泣き止んではくれたけど、まだ大丈夫ではなさそうだ。
弥生さんは、そんなマジョリカさんを横目で見つつ、両の拳を握り、それを口元に寄せ何かを呟いた。
数瞬後、二つの拳の指の隙間、ここから紫色の強い光がスター状に溢れだし、何度も分裂と編み込みを繰り返した。
キレイだなぁなんて一分も眺めていると、紫色の光は束は構築されて、背もたれのついた座り心地の良さそうな椅子へと姿を変えた。
「マジョリカ、ずっと立ってると疲れるだろう? この椅子に座んなよ。……あんまり形は良くないかもだけど、」
弥生さんがそう勧めると、
『死者の身体は電気の集合体だもの。生者ほど疲労は感じないよ、……でも……アリガト、』
マジョリカさんが弥生さんにお礼を言った……でもって、座ってくれた……!
『……勘違いしないでね、大倉弥生を許したんじゃない。ただ……怒ってばっかりなのが疲れちゃったんだ。ウチ、ここ一週間、泣いてるか、怒ってるか、嫉妬してるかだよ』
はぁっと溜息をつくマジョリカさんだが、そんな姿すら麗しい。
「嫉妬って……?」
弥生さんがアホ面で呟いた。
ちょっと、それアナタが聞く?
『……決まってる、大倉弥生、あんたにだよ』
心なしかマジョリカさんも、それオマエが聞く? な、色を含んだ声で答えた(僕の先入観?)。
「え゛っ!? なんで!? アタシがマジョリカに嫉妬するのは解るけどさ! 嫉妬する必要ないじゃんか! だってアイツは心底マジョリカに惚れてるんだよ?」
ははは……コレは、さっきの嘘の続きでもなけりゃ嫌味でもない。
この人は、長年ジャッキーさんに「既婚者だから」「妻を愛してるから」と言われ続けて、めっちゃ刷り込まれちゃったんだ。
まさか自分が雲上のマジョリカさんに嫉妬なんかされるはずがないって、本気で信じ切っちゃってるんだよ……なんだか不憫だな、オイ。
『心底惚れてる……? じゃあ、なんでジャッキは、ウチともう逢わないって言ったの? ……ねぇ、大倉弥生が言ってたコトは本当なの? あんたはジャッキが大倉弥生に同情して、それを好きと勘違いしたんだって言った。それは本当? そうならいいなって思うけど、そっちを信じたいけど、ジャッキのあの言い方は大倉弥生を本当に好きなんじゃないかって』
紫に光る椅子に座り、弥生さんをジッと視詰めるマジョリカさん。
弥生さんはその視線を一旦は受け止め、だけど逸らし、ささくれたベンチに座わり、軽く親指を噛んでいる。
「弥生さん、全部……ちゃんと話した方が良いと思う」
僕がこう言ってしまった段階で、弥生さんの話にウソがあったと言ったようなものだけど、こうでもしないと言わなそうなんだもの。
ジャッキーさんがマジョリカさんの前から、姿を消そうとしてる今、あんなウソはなんの役にも立たない。
それどころか、黄泉の国に還った後、変わらず連絡の取れないジャッキーさんに絶望し、下手な嘘をついた弥生さんに真相を確かめるべく再び会いにくるだろう。
それはかえって傷つける。
『やっぱり……違うんだ。ねぇ、教えて? ジャッキと大倉弥生の間に何があったのか。二人の気持ちはどうなっているのか。ちゃんと知りたいよ』
声を荒げるでもなく、泣くでもなく、マジョリカさんは真剣だった。
ジャッキーさんを取り戻したいと、なりふりなど構っていられなくなったのかもしれない。
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