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AM2:08
マジョリカさんは紫色の椅子に、弥生さんはささくれたベンチに、同じ男性を愛する二人は向かい合って座り、ずっとずっと話し込んでいる。
話をする前に、マジョリカさんはこう言った。
『ジャッキが大倉弥生の事も好きになってしまったのは嫌だけど、すごく嫌だけど、だけど……今回のコト、きっとウチにも原因があるんだ。こういうのって片方だけがぜんぶ悪いってないと思う。だから知りたいよ。ウチ、もう怒ったりしないでちゃんと聞く。だから大倉もちゃんと話して』
時折、マジョリカさんが声を荒げる事もあるけれど、すぐに『ごめん』と謝っていた。
反対に、いつだって喧嘩上等な弥生さんの方が、声を荒げる事がない。
水渦さんにも、このくらい大きな心で接してほしいモノである。
僕はというと、少し離れた所で二人の様子を見守っていた。
もしも喧嘩になりそうなら止めに入るけど、なんていうか、今の調子なら大丈夫かなぁと思う。
まだ分からないけど、たぶんね。
それにしても、結局ジャッキーさんから折り返しの電話来なかったなぁ。
現場大変なのかなぁ。
弥生さん情報だと、遠隔憑依中でも電話くらい大丈夫だって言ってたのに。
夜が明けて明るくなったらもう一度かけてみようか。
どっちにしたって、マジョリカさんと会わせてあげた方がいいだろう。
もう逢えない、これを音声だけのやり取りの中で言われ、『ハイそうですか』とはいかないよ。
せっかく現世に、しかもジャッキーさんの家の近くにいるんだから、顔見てちゃんと話した方がいい。
『岡村、』
呼びかけられて振り向くと、美の女神さまが立っていた。
はぁ……美しい……ちょっと拝んでおこうかな……とりあえず合掌。
ジャッキーさん、よくこんな美人に、”もう逢わない”なんて言ったよなぁ。
僕なら絶対言わないよ。
「マジョリカさん。どうしたんですか? もうお話は終わったんです?」
『終わってないよ。少し休憩。……やっぱり、ジャッキは大倉弥生の事が好きだったよ……ねぇ、岡村はなにか知ってる?』
知ってるも何も……ジャッキーさんがガチギレで”好きだ!”って言った瞬間を目の前で見ちゃいました。
今思えば、あの気持ちの伝え方って。
言った方も言われた方も、え……? みたいになっちゃってたし。
「まぁ……多少は知ってます」
『そっか……ジャッキは大倉弥生にずっと嘘をついてたんでしょ?』
「そうみたいですね。弥生さん、五年の間、ずっと片想いだと思ってたんです。それで何度も泣いたって言ってました」
『片想いの割にはキスはしたって言ってたよ』
マジョリカさんは少し目を伏せ口角を下げた。
想像するだけでもイヤだという気持ちが伝わる、当然か。
「……あーっと、その辺は僕ちょっと」
『はぁ、落ち込んじゃうよ。逆に言えばキスしかしてないのに、ずっと好き合ってるんだもの。しかもそれは五年も前の話だって。……心の繋がりが強いってコトなのかな』
ズーンと落ち込むマジョリカさんになんて言ったらいいものか。
恋愛関係の話は機転も利かないし、なにより、せっかく弥生さんの口から説明してるんだ。
僕の主観であれこれモノを言って、マジョリカさんに誤解させるような事は避けたい。
なので話をそらしてみる事にした。
「僕にはなんとも……あの、話は違うんですけど、さっき ”よりによって大倉弥生なの?”って言ってましたよね? マジョリカさんって、弥生さんのコト前から知ってたんですか? 」
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