第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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◆ AM2:08 マジョリカさんは紫色の椅子に、弥生さんはささくれたベンチに、同じ男性を愛する二人は向かい合って座り、ずっとずっと話し込んでいる。 話をする前に、マジョリカさんはこう言った。 『ジャッキが大倉弥生の事も好きになってしまったのは嫌だけど、すごく嫌だけど、だけど……今回のコト、きっとウチにも原因があるんだ。こういうのって片方だけがぜんぶ悪いってないと思う。だから知りたいよ。ウチ、もう怒ったりしないでちゃんと聞く。だから大倉もちゃんと話して』 時折、マジョリカさんが声を荒げる事もあるけれど、すぐに『ごめん』と謝っていた。 反対に、いつだって喧嘩上等な弥生さんの方が、声を荒げる事がない。 水渦(みうず)さんにも、このくらい大きな心で接してほしいモノである。 僕はというと、少し離れた所で二人の様子を見守っていた。 もしも喧嘩になりそうなら止めに入るけど、なんていうか、今の調子なら大丈夫かなぁと思う。 まだ分からないけど、たぶんね。 それにしても、結局ジャッキーさんから折り返しの電話来なかったなぁ。 現場大変なのかなぁ。 弥生さん情報だと、遠隔憑依中でも電話くらい大丈夫だって言ってたのに。 夜が明けて明るくなったらもう一度かけてみようか。 どっちにしたって、マジョリカさんと会わせてあげた方がいいだろう。 もう逢えない、これを音声だけのやり取りの中で言われ、『ハイそうですか』とはいかないよ。 せっかく現世に、しかもジャッキーさんの家の近くにいるんだから、顔見てちゃんと話した方がいい。 『岡村、』 呼びかけられて振り向くと、美の女神さまが立っていた。 はぁ……美しい……ちょっと拝んでおこうかな……とりあえず合掌。 ジャッキーさん、よくこんな美人に、”もう逢わない”なんて言ったよなぁ。 僕なら絶対言わないよ。 「マジョリカさん。どうしたんですか? もうお話は終わったんです?」 『終わってないよ。少し休憩。……やっぱり、ジャッキは大倉弥生の事が好きだったよ……ねぇ、岡村はなにか知ってる?』 知ってるも何も……ジャッキーさんがガチギレで”好きだ!”って言った瞬間を目の前で見ちゃいました。 今思えば、あの気持ちの伝え方って。 言った方も言われた方も、え……? みたいになっちゃってたし。 「まぁ……多少は知ってます」 『そっか……ジャッキは大倉弥生にずっと嘘をついてたんでしょ?』 「そうみたいですね。弥生さん、五年の間、ずっと片想いだと思ってたんです。それで何度も泣いたって言ってました」 『片想いの割にはキスはしたって言ってたよ』 マジョリカさんは少し目を伏せ口角を下げた。 想像するだけでもイヤだという気持ちが伝わる、当然か。 「……あーっと、その辺は僕ちょっと」 『はぁ、落ち込んじゃうよ。逆に言えばキスしかしてないのに、ずっと好き合ってるんだもの。しかもそれは五年も前の話だって。……心の繋がりが強いってコトなのかな』 ズーンと落ち込むマジョリカさんになんて言ったらいいものか。 恋愛関係の話は機転も利かないし、なにより、せっかく弥生さんの口から説明してるんだ。 僕の主観であれこれモノを言って、マジョリカさんに誤解させるような事は避けたい。 なので話をそらしてみる事にした。 「僕にはなんとも……あの、話は違うんですけど、さっき ”よりによって大倉弥生(・・・・・・・・・・)なの?”って言ってましたよね? マジョリカさんって、弥生さんのコト前から知ってたんですか? 」
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