第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

127/222
前へ
/2550ページ
次へ
話し終えたマジョリカさんは、僕に背を向けて鼻を啜っていた。 弥生さんとマジョリカさん、お互いに顔を視たコトはないけど、10年も前から繋がっていたんだ。 マジョリカさんは、霊媒師としての大倉弥生と勝負を重ね、友達になれるとまで思ってくれた。 なんで……同じ人を好きになっちゃったんだろうな。 そうじゃなければ、きっと。 「……僕もね、あの廃病院にいたんですよ。弥生さんと、あとウチの社長も一緒に。あのデッカイ光る道を視たんです」 あの日の事を思い出し、華奢な背中にそう言うと、 『そうなの……?』 と、振り向いてくれた。 「すごく綺麗で大きな道でした。廃病院にいた大澤先生達、めちゃくちゃ喜んでいましたよ。みんなで並んで一緒に逝けるって。楽しそうに笑って、幸せそうに黄泉の国へ旅立ったんです」 『そう……喜んでたの……良かった……』 「……本当に良い方達だったんです。悪霊の汚名を被ってまで長い年月、生者を守る為にチームワークで頑張ってくれて、もう家族みたいなの。あの人達をバラバラに旅立たせるのは忍びなかった。弥生さんが一番そう思ったんじゃないかな。でも思うだけじゃ叶わない、マジョリカさんが応えてくれたから叶ったんだ。……本当にありがとうございます。大澤家のみんなの笑顔、マジョリカさんにも視せたかったな。……ぁ、」 …………ドキッとした。 僕を視上げるマジョリカさんは、百万本のバラの花が霞むほどの輝く笑顔で、それはそれは嬉しそうな顔をしてたんだ。 『ウチラの仕事は光る道を伸ばすコト。だけど伸びた先で死者達がどんな顔で、どんな反応で、どんなコトを言っているのかは分からない。だから、喜んでた、笑ってた、幸せそうだったって教えてもらえると嬉しいよ。伸ばして良かったって、無茶言われてもそれに応えるコトが出来て良かったって思うよ」 「そっか……」 『そうだよ、喜んでもらいたいもん。黄泉の国まで楽しい旅にしてあげたいもん。大倉弥生はさ、死者のコトすごく考えてる。だからあの子の無茶を聞くってコトは、その向こうで死者が笑ってるってコトなんだ。だから、大倉弥生との勝負は楽しかった。絶対に勝たなくちゃいけない勝負で、勝てば、死者も大倉弥生もウチも幸せになれるんだ』 「うん……そうだね。弥生さんは死者のコトも生者のコトも考えてくれる。口は悪いけど、ちょっと下品だけど、大酒のみだけど。そんなのどうでも良くなるくらい優しい人なんだ」 『ん……知ってるよ。さっきだってジャッキを庇ってた。“アタシが全部悪いんだ”って言い張ってた。大倉弥生はウチに気付いてないけど……付き合い長いもん。なのに……なんでジャッキなんだろ、』 マジョリカさんの伏せた目が淋しそうで、長いため息が漏れていた。
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2367人が本棚に入れています
本棚に追加