第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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◆ AM3:02 『ココがジャッキのオウチ……!』 初めて視るジャッキーさんの自宅にマジョリカさんが弾んだ声を上げた。 こんな時じゃなければ、もっともっと喜んでいるだろうに。 早いトコ悪霊達をなんとかして堪能させてあげたいな。 一方弥生さんは。 「うわぁ……家全体が真っ黒だ……」 と辟易中だ。 「悪霊が出す黒い靄が建物覆っちゃった感じ?」 「まさにそんな感じ。アタシさ、黒タイツハウスって初めて視たよ」 ブーブー言いながら門扉を開けて敷地内に入る。 前回僕がお邪魔した時に見た、玄関前のお花の鉢植えがなくなっている。 という事は、あの鉢植えが植物結界の一つだったんだ。 弥生さんが玄関のドアをガチャガチャするも、鍵がかかって中に入れない。 インターホンを鳴らしてもやはり応答はない。 どうするか……と思っていたら、「変わってなければココだな、」と玄関横にある傘立ての下をゴソゴソし始めた弥生さんが……「あったっ!」と家の鍵を手にしていた。 「えぇ……今時、こんなところに鍵隠すぅ? セキュリティ緩々じゃない」 思わず呆れてしまったが、その緩々のおかげで鍵ゲットだ。 躊躇なく施錠解除した弥生さんの後に続き、ジャッキーさんのオウチにお邪魔させてもらう。 なんか、神奈川の黒十字様の現場を思い出すな。 マジョリカさんは、宅内の様子に静かにはしゃいでいた……が、『もしウチが生きてたら、このオウチに住んでたんだなぁ』と言ったのが切なくて、僕の眼にはまるで生者にしか視えないけど、改めて死者の方なのだと思う。 「ジャッキーは現場に入る時、大抵一階のリビングで遠隔憑依するんだ」 弥生さんにそう言われ、僕達は玄関から続く廊下を進む。 突き当りのドアの向こうがリビングだ。 この時間、まだまだ日は登らない。 リビングとの仕切りドアの真ん中、長方形にはめ込まれた光取りの摺りガラスは暗いままだった。 「ジャッキーさん、本当にリビングにいるのかなぁ。真っ暗だ」 心配になって弥生さんにそう言うと、 「ま、開けてみていなけりゃ別の部屋探せばいいよ」 うん、ごもっとも。 シンプル思考ですな。 なんて。 軽い感じで会話をしてるのだが、家の中の空気はすこぶる重かった。 なんていうか嫌な気と嫌な感情が濃霧となって漂っている感覚だ。 マジョリカさんはだんだんと気分が悪くなってきたのか顔をしかめている。 弥生さんは手練れの霊媒師ゆえ、このくらいの瘴気は慣れっこだ。 僕はというと……確かに嫌な感じがするのだが、さっき公園で、水渦(みうず)さんの負の感情入り人型(ひとがた)を、電気針で刺してたのに比べれば、今の瘴気が爽やかなフレグランスに感じるのだ。 てか水渦(みうず)さんの負の感情、マジパネェ。
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