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弥生さんが仕切りのドアを開けようと、ドアノブに手を掛けた。
本当なら、男の僕が先に入るべきなんだと思う。
だけど、正直言って身体能力から霊力まで、全てにおいて弥生さんが上なのだ。
変に僕が先頭切って、すぐにやられる、もしくは人質に取られたのではかえって弥生さんの負担が増える。
そういった理由から、弥生さんが先頭なのだが「気にすんな、斬り込みはアタシと誠の仕事だ」と気まで遣ってもらった。
はぁ……情けないなぁ。
ジャッキーさんなら、弥生さんを背中に隠して先に行くんだろうなぁ。
僕だって弥生さんを守りたいのに。
この現場が終わったら本気で鍛えよう、社長に相談してみよう。
自分の身は自分で守れるように、次の現場では弥生さんを背中に隠せるようにするんだ。
カチャリ……キィィィ
静かに開けたドアの向こうには、前回お邪魔した時に見たフワフワのラグとローテーブルがあるはずだった。
だが、そこにあったのは……なんだコレ……?
赤黒くてヌラヌラした感じのナニカが開けたリビング一面に広がって……キモチワルイ……それに酷い臭いだ……
瞬時に鳥肌が立つ。
正体が解らず呆気にとられ動けない数秒後。
突如リビングから赤黒の塊が、糸を引きながらドアの外に飛び出した。
「みんな下がれっ!」
ハスキーな大声が響くのと同時。
手に電気を帯電させた弥生さんが、赤黒い塊をリビング内に押し込んで、そのまま背中でドアを閉めた。
「弥生さんっ!」
すぐに行かなくちゃ!
焦ってドアノブをガチャガチャ捻るも開かない。
中央の摺りガラスは赤黒色でいっぱいで、鈍い光が明滅してる。
時折細い身体のシルエットが右に左に動き回るのが映る。
『大倉っ!』
心配したマジョリカさんがドアに近付こうとする、が。
【ダメ いっちゃ】
繋いだ手に制止され、少ない文字数が留まる事を強制する。
マジョリカさんは泣きそうな顔でドアを視つめていた。
「僕、ちょっと行ってきます! ヤヨちゃん、マジョリカさんを守ってね」
首を縦に振る女の子の頭を一撫ぜし、ドアノブを力一杯捻った。
さっきはまったく開かなかったのだ。
今回は渾身の力を込め、絶対に開けるという気合と共に押すと、途端ガクンッと身体が前のめりになる。
まるで向こう側にも人がいて、僕と同時に開け合ってしまったの如くだ。
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