第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

132/222
前へ
/2550ページ
次へ
弥生さんが仕切りのドアを開けようと、ドアノブに手を掛けた。 本当なら、男の僕が先に入るべきなんだと思う。 だけど、正直言って身体能力から霊力(ちから)まで、全てにおいて弥生さんが上なのだ。 変に僕が先頭切って、すぐにやられる、もしくは人質に取られたのではかえって弥生さんの負担が増える。 そういった理由から、弥生さんが先頭なのだが「気にすんな、斬り込みはアタシと誠の仕事だ」と気まで遣ってもらった。 はぁ……情けないなぁ。 ジャッキーさんなら、弥生さんを背中に隠して先に行くんだろうなぁ。 僕だって弥生さんを守りたいのに。 この現場が終わったら本気で鍛えよう、社長に相談してみよう。 自分の身は自分で守れるように、次の現場では弥生さんを背中に隠せるようにするんだ。 カチャリ……キィィィ 静かに開けたドアの向こうには、前回お邪魔した時に見たフワフワのラグとローテーブルがあるはずだった。 だが、そこにあったのは……なんだコレ……? 赤黒くてヌラヌラした感じのナニカ(・・・)が開けたリビング一面に広がって……キモチワルイ……それに酷い臭いだ…… 瞬時に鳥肌が立つ。 正体が解らず呆気にとられ動けない数秒後。 突如リビングから赤黒の塊が、糸を引きながらドアの外に飛び出した。 「みんな下がれっ!」 ハスキーな大声が響くのと同時。 手に電気を帯電させた弥生さんが、赤黒い塊をリビング内に押し込んで、そのまま背中でドアを閉めた。 「弥生さんっ!」 すぐに行かなくちゃ! 焦ってドアノブをガチャガチャ捻るも開かない。 中央の摺りガラスは赤黒色でいっぱいで、鈍い光が明滅してる。 時折細い身体のシルエットが右に左に動き回るのが映る。 『大倉っ!』 心配したマジョリカさんがドアに近付こうとする、が。 【ダメ いっちゃ】 繋いだ手に制止され、少ない文字数が留まる事を強制する。 マジョリカさんは泣きそうな顔でドアを視つめていた。 「僕、ちょっと行ってきます! ヤヨちゃん、マジョリカさんを守ってね」 首を縦に振る女の子の頭を一撫ぜし、ドアノブを力一杯捻った。 さっきはまったく開かなかったのだ。 今回は渾身の力を込め、絶対に開けるという気合と共に押すと、途端ガクンッと身体が前のめりになる。 まるで向こう側にも人がいて、僕と同時に開け合ってしまったの如くだ。
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2367人が本棚に入れています
本棚に追加