第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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転ぶっ! と冷や汗をかいた半瞬後、僕は誰かの大きな胸に支えられ、転倒をまぬがれた。 頭の上から聞き覚えのある低音が降ってくる。 『ああ、すまない。同時に開けてしまったようだ。怪我はない?』 そこにいたのは黒いTシャツに濃いめの色のジーンズを履いたジャッキーさんで、優しい顔で僕を見下ろしていた。 「ジャッキーさん! 良かった! 無事だったんですね! 心配しました、ジャッキーさんが悪霊を取り込んで霊力(ちから)にしてるんだろうって、それでみんなで来たんです。 マジョリカさんもいるんですよ! すごくジャッキーさんに逢いたがっていて……あれ? そういえば弥生さんは? 先にココに入ったんです、それに赤黒いナニカがいたのに……」 キョロキョロ左右に首を振り、弥生さんの姿を探す……が、いない。 赤黒いナニカすらいない……消えてしまった……? 改めて部屋を見ると、薄っぺらいラグと高さのあるテーブル。 あれ? 前に見たテーブルと違うな。 買い換えた? いや……違うだろ……だってひどく染みだらけだし木も……なんで?……腐っている…… それに……目線を泳がせ部屋全体を見ると、随分と散らかって……壁際には……なんだ?……頭蓋骨……? のような物が積み上がっている……なんであんな物が……それに……庭に面した大きな窓ガラスは蜘蛛の巣状のヒビが全体に広がってるし…… …… ………… ………………ココ、どこだ? ジャッキーさん()のリビングじゃないだろ。 こめかみに冷たい汗が流れる。 僕は足を後ろに蹴ってドアを閉めた。 途端、リビング内の空気が重くなり、吐き気を誘う腐敗臭が鼻につく。 僕の前にジャッキーさんはいるけど、 『ところでぇ……廊下に随分とイイ女がいたなぁぁ……アレェ……オマエの女ぁ? はぁ……はぁ……たまんねぇなぁぁぁ……長い髪ぃぃぃ……根本からぁぁ……毟り取ってぇぇぇ……喰ったらぁぁぁ……霊力(ちから)になるぅぅぅ……身体もぉぉぉ……良いぃぃぃ……肉がぁぁぁ……柔らかそうでぇぇぇ……旨そうだぁぁああああ』 コイツ……違う。 ジャッキーさんの顔をしたナニカ(・・・)が、下品な言葉を並べてる。 後ろのドアを凝視しながら二ヤついている。 コイツはマジョリカさんを狙ってる。 行かせる訳にはいかないよ。 死ぬ気で食い止めてやるからな。 よくよく視れば、本物はもっと筋骨逞しい。 偽ジャッキーめ、オマエなんか怖くない。 本当だぞ、嘘じゃない。 だってさ。 先週のガチギレジャッキーさんを見た後じゃあ、大抵のモノは怖くないですからっ!
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