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◆
~~ドアの向こう側・エイミー1~~
距離を取らなくちゃ駄目だ。
本物のジャッキーさんに比べ、あそこまでの筋骨隆々ではないけれど、偽ジャッキーと僕との体格差は歴然。
コイツとまともに戦えば、大げさではなく一分ももたないだろう。
勝負はもちろん僕の惨敗だ。
さっきから偽ジャッキーは、
『女ぁぁぁっ……! あの女を喰わせろぉぉぉぉ……!!』
と、すこぶる下品で物騒な、迷わず警察に通報したくなる発言を繰り返している。
行かせる訳がないじゃないか。
マジョリカさんはすごく良い人なんだ。
オマエなんかに触らせない。
それにもし、このドアを突破させてしまったら、間違いなくジャッキーさんと弥生さんにガチギレされる。
あの二人を怒らせるよりオマエを相手にした方が楽ちん、なはず……!
接近されてワンパンでも食らったらマズイ。
下手すりゃ気絶ちゃうだろうし。
猫だ……猫になるんだ。
猫は間合いを取るのが上手い。
興味はあるけど、まだ仲良くなってない人間を前にした時、猫は必ず一定の距離をキープする。
猫になるのと同時、僕の頭の中には会社でも家でも電車の中でも、延々リプレイさせてきた、水渦さんの印の動画が再生されていた。
すべて覚えた、会社の研修室では霊反応も出た、実践は今夜が初めてだが失敗は許されない。
左右の手のひらを祈るように合わせ、印の成功を切願した。
先代、大福、僕に霊力を……!
脳内の再生アプリを改めてタップする、水渦さんのポッチャリした指がドアップに映る、曲げて伸ばし、絡めて捻っている。
この動きを完コピ再現させる……工程は長い……ドアの前を死守しながら……睨み合いながら……水渦さんの手指と僕の手指を一体化させるんだ。
僕は一心不乱に手指を絡めた。
『男ぉぉぉ……! オマエ邪魔だなぁぁぁ……! 少し遊んでやろうと思ったが何も仕掛けてこないぃぃ……! もう飽きたぁぁぁ……! 先にオマエを吸ってやるぅぅぅ……! カラカラのミイラにしてやるぁぁぁああああああ!!』
偽ジャッキーが僕を目掛けて飛んだ。
マズイ……!
印はあと二工程残ってる。
だけど落ち着け、大丈夫、絶対、必ず、ココで、間違えたら、最初からやり直しだ。
間違えたら、やられる、僕だけなら、いい、僕のミスだ、だけど、マジョリカさんは、怖がっていた、それでも、僕らを信じて、着いてきてくれた、きっとまだ信じてる、信じてくれてる、絶対に裏切れない、裏切らない、守る、僕が、…………よし! 結びきったッ!
眼前まで迫った偽ジャッキーは、食虫植物のハエトリソウを思わせる口を大きく開けて僕の頭ごと喰らおうとしていた。
ドンッとぶつかり、ギザついた爪で首を絞められた。
動く事がままならない、苦しい、呼吸が……だけど、この距離、いくら僕でも、外さない……!
耳まで裂ける口の中に僕の右手を突っ込んだ。
粘ついた口内、あたる歯が手の皮を削いだが、それでも、喉の奥まで、思いっきり捻じ込んだ。
ウゥップ、偽ジャッキーの嘔吐く声と真っ赤な光が口の隙間から漏れ、僕の中の奥底から、沸騰した血液に似た何かが五指に向かって速度をもって駆け上がり____
「ばいばい、」
ジャッキーさんから聞いた弥生さんのセリフ。
廃ビルの悪霊四体を瞬殺した時、彼女は最後にこう言ったらしい。
僕もそれを真似した。
ラフなサヨナラのご挨拶。
次の瞬間、偽ジャッキーの首から上が爆発した。
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