第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

137/222
前へ
/2550ページ
次へ
◆ ~~ドアの向こう側・弥生2~~ 赤黒い内蔵ライクは肉厚で、たとえば叩きつけられてもダメージは少ない。 ただキモイ。 とにかくネッチャネチャ。 こんなのワザワザ作り出すとか、悪霊ってアタマおかしいんじゃないかな。 しかも……こんな感じにさ、内蔵を形状変化させて、矢だったり、鞭だったり、弾丸だったり、あらゆる武器を作って攻撃してくるの。 床以外の四方の壁と天井から、形状変化させた矢がアタシ目掛けて放たれた。 当然、後方に飛んで矢を回避したけど、着地の時の足への負担が蓄積される。 このままグダグダやってるんじゃ駄目だ。 この内蔵ライクを作り出してる悪霊本体がどこかにいるはずなんだ。 それを見つけ出して滅すればいいんだけど……こういうの探すのってホントに苦手。 透視系の印とか結べないし、つーか、透視系だけじゃない。 クソ水渦(みうず)の言う通りだよ。 印はキライ、ちっとも覚えられないし覚える気もない。 だってさ、工程をちょっと間違えただけで無効になって、最初からやり直しとかあり得ないだろ。 だからといって、この広いリビング内。 霊刀でチマチマやって、悪霊本体を探し出すほどの時間はない。 早くケリつけてマジョリカの元に戻りたい。 ヤヨちゃんがいれば大丈夫だと思うけど、ジャッキーの大事な人だもの、アタシのこの手で守りたい。 だから今回は武器を変える。 アタシのメイン武器は刀とトンファーとトマホーク。 どれもこれも接近戦に強いんだ。 身体が小さくて手も短いアタシは、頭で色々考えるよりも突っ込んでいった方が早いからな。 あんまり飛び道具は好きじゃないけど、直接ブッ叩いた感触が解らないのがイヤダけど、そうも言っていられない。 『女ァァァ……オマエ……イイ髪してるなぁ……長くて艶々だぁ……それ……寄越せよぉぉぉ……味わってぇぇぇ……呑み込んでぇぇぇ……霊力(ちから)にするぅぅぅ』 うわ、キモ。 なんか一人で盛り上ってる。 つーか褒めるの髪だけか? 顔とかスタイルも褒めろコノヤロー。 両手を握る、拳の指の隙間から溢れだすのは、紫色したアタシの霊力(ちから)。 スター状に光り輝き、煌めきが一番強くなったタイミング。 ここでアタシだけの言霊を唱えれば、強い霊力(ちから)が発動される。 途中で言霊変えたんだ、人に聞かれたらマズイやつ。 いつもは小さな声で唱えてる。 だけど今、ココにはアタシ以外に誰もいない。 たまには良いだろ、思いっきり唱えよう。 すぅっと息を吸う、そして。 「ジャッキー大好きーっ! 優しくて強くて逞しくて垂れた目もクシャクシャな髪もガサガサな唇も何もかもが好きーっ! めちゃくちゃ愛してるー! 愛があればなんでも出来ちゃう! アタシに霊力(ちから)をーーーっ!」 あーーーースッキリーーーー! 大丈夫、内蔵の壁は肉厚でドアの向こうには聞こえない。 もう逢わないって決めたけど、ジャッキーを嫌いになんかなれないよ。 いいだろ?  一人の時に言うくらい。 ”一生好きでいろ”って、半分は本気で言ってくれたんだ。 だからいいだろ?  一生想い続けたって。
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2367人が本棚に入れています
本棚に追加