第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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姿を隠す悪霊は、命乞いの取引を持ち掛けてきた。 ちょうど良かった。 アタシも、聞こうとは思ってたんだ。 ま、メンドクサクてもう撃っちゃおうかとも思ったけど。 でもね、教えて! なんて言わないよ。 どっちが上か解らせる必要がある。 「ああ、そうね。知りたいけど頼む気はない。自分の立場を考えろ。言え、知ってるコト全部話せ」 『教えたら撃たない……?』 「あぁ? ああ、」 『じゃ、じゃあ……あの男、調子に乗りすぎたんだ。昨日の明け方だったか。突然物凄い強い力に引っ張られて、辺り一帯にいた悪霊共がこの家に集められたんだ。俺達を引っ張ったあの男は、手をこうよ……チマチマやって、前列にいた悪霊(やつら)が男の中に吸い込まれていった。残りの俺らは、変な鎖で縛られ拘束されたんだ。それから一日半、男はこの部屋に座ったまま、ブツブツ喋りながら何かをしてた。それが終わったんだろうなぁ……いきなりぶっ倒れて、同時に俺らを縛ってた鎖が切れた。男は意識を失ったままだし、こんな事されて腹も立ってたしで、みんなで男をボコったんだ』 ジャッキー……やっぱり悪霊を燃料に現場に入ったんだ。 どうも現場は終わらせたみたいだな。 完了して気が抜けて気絶したのか。 それにしても…… 「男をボコったって? ふぅん、それで? その男は今どこにいるの?」 『ああ、アイツは今、………………』 …… ………… ……………… 「あっそう。分かった、男はソコ(・・)にいるのね。知ってる事はこれで全部? OKOK、じゃあいいや、もう消えな」 再び、アタシは天井に向けてパンツァーファウストを構えた。 『オイ待てよっ!! 全部話しただろ!! 話したら撃たないって言ったじゃねぇか! 約束が違う!!』 狼狽えすぎ。 やっぱり天井か。 声の方向からしてそうかと思ったけど、フェイクの可能性もある。 だけどテンパった震え声。 間違いないだろ。 「あぁ? 約束は守る、話したから撃たないさ。ココまではな。今これからオマエを撃つのは別の理由だ。オマエラがボコったヤツな、アタシの大事な男なんだよ。死ぬほど好きでたまらない男だ。ジャッキーに危害を加えるヤツは生者だろうが死者だろうが許さない」 『そういうのアリか……? 卑怯だろ……』 「卑怯? 悪霊が何言ってんだ。アタシは15の頃からオマエラに嫌がらせをされてきた。やめてくれ、いい加減にしてくれと何度も言ったが聞いてくれなかったぞ? 卑怯で性格悪いのはオマエラだろ。ココでオマエを逃がしたら、仲間がやられる」 『やめてくれ……許してくれ……俺は幽霊で、もう次がないんだ。滅されたら消滅する、無になるしかねぇ』 天井の一部からドロドロに溶けたナニカが滴り落ちてくる、あそこか。 「もういいよ。ばいばい、」 耳を劈く(つんざく)轟音と撃った衝撃。 激しいバックファイヤは、どんなに踏ん張ってもアタシの身体を大きく揺らす。 一瞬浮いた身体を立て直してから、まわりを見ると、内蔵ライクな空間は消え去って、かわりにフカフカのラグに楕円のローテーブルが現れた。 懐かしい……五年前、三カ月だけ一緒に暮らした、愛しいリビングがそこにあった。
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