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◆
~~ドアの向こう側・エイミー2~~
両手で口を押えてキッチンへと向かう。
人の家のシンクの中に、悪いと思いつつも胃の中のモノをぶちまけた。
リビングの床に嘔吐するよりはマシだろう。
ちゃんと掃除しますから、ジャッキーさん、許してください。
水道のレバーを上げて、ジャージャーと水を流す。
せっかく弥生さんの手作り弁当を頂いたっていうのに勿体ない。
水渦さんの印。
数種類ある中から選んだのは攻撃用の印。
彼女がよく使う、五指から電気の矢を放つアレだ。
水渦さんの霊力発動固定カラーは蒼。
僕は基本、社長と同じ赤色で、同じ矢を放つにもその色は真っ赤だった。
今までの人生で矢なんて撃った事はない。
だけどさすがに口の中に手を突っ込み、口内から五本の矢を放てば外す事は無い。
そう思って滅した……マジョリカさんをヤヨちゃんを、そして自分自身を守る為に。
結果、悪霊の頭は爆発するように吹っ飛んだ。
滅する事に成功し、偽ジャッキーは濃霧が飛散するように消え去った。
初めてだ。
悪霊を相手にしたのも、滅したのも。
一人だけでやり遂げた、記念すべき日なのかもしれない。
だけどさ……僕の目は良すぎるんだ。
死者と生者、目視だけでは見分けがつかない。
偽ジャッキーは、本物よりも二回りほど縮んだ感じで、でも顔はジャッキーさんにそっくりだった。
僕からしたら、生者にしか視えない偽ジャッキーの頭を吹き飛ばした。
まるで殺人を犯してしまったような気になって、込み上げる吐き気に耐える事が出来なかった。
胃の中のモノをすべて出し切って、無言のままシンクを掃除した。
ゴシゴシ何度も擦った、汚れは落ちたはずなのに、気になって仕方がない。
頭の中には偽ジャッキーの、眼を見開いた最後の表情がこびりついている。
力が入らない……僕は崩れるようにしゃがみ込む。
大丈夫か……?
アレは本当に死者だったのか?
そうだ……ちゃんと切り分けをしていない。
生者と死者を視分ける為の放電をしていない。
本当に死者ならば、放った電気は僕との間を赤い光が繋ぐはず。
それをやっていない。
本当は生者だったら……実は本物のジャッキーさんだったらどうしよう。
僕は人を殺してしまったんじゃないか?
怖い……怖い……誰か……違うって言って……助けて……弥生さん……!
頭を抱えて蹲るしか出来ない、身体の震えが止まらない。
ゴオォォンッッッ!!!
なんだ!?
突如聞こえた耳を劈く轟音と、地震のような大きな揺れ。
キッチンの床で頭を抱えていた僕は、恐る恐る顔を上げた。
誰も……いないはず……弥生さんも……最初に視えた赤黒いナニカも、今はココにない……はずだったのに。
「よぉ、エイミーちゃん!」
見上げたキッチンカウンター。
そこから身を乗り出して覗き込んでくるのは弥生さんだった。
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