第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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◆ ~~ドアの向こう側・エイミー2~~ 両手で口を押えてキッチンへと向かう。 人の家のシンクの中に、悪いと思いつつも胃の中のモノをぶちまけた。 リビングの床に嘔吐するよりはマシだろう。 ちゃんと掃除しますから、ジャッキーさん、許してください。 水道のレバーを上げて、ジャージャーと水を流す。 せっかく弥生さんの手作り弁当を頂いたっていうのに勿体ない。 水渦(みうず)さんの印。 数種類ある中から選んだのは攻撃用の印。 彼女がよく使う、五指から電気の矢を放つアレだ。 水渦(みうず)さんの霊力発動固定カラーは蒼。 僕は基本、社長と同じ赤色で、同じ矢を放つにもその色は真っ赤だった。 今までの人生で矢なんて撃った事はない。 だけどさすがに口の中に手を突っ込み、口内から五本の矢を放てば外す事は無い。 そう思って滅した……マジョリカさんをヤヨちゃんを、そして自分自身を守る為に。 結果、悪霊の頭は爆発するように吹っ飛んだ。 滅する事に成功し、偽ジャッキーは濃霧が飛散するように消え去った。 初めてだ。 悪霊を相手にしたのも、滅したのも。 一人だけでやり遂げた、記念すべき日なのかもしれない。 だけどさ……僕の目は良すぎるんだ。 死者と生者、目視だけでは見分けがつかない。 偽ジャッキーは、本物よりも二回りほど縮んだ感じで、でも顔はジャッキーさんにそっくりだった。 僕からしたら、生者にしか視えない偽ジャッキーの頭を吹き飛ばした。 まるで殺人を犯してしまったような気になって、込み上げる吐き気に耐える事が出来なかった。 胃の中のモノをすべて出し切って、無言のままシンクを掃除した。 ゴシゴシ何度も擦った、汚れは落ちたはずなのに、気になって仕方がない。 頭の中には偽ジャッキーの、眼を見開いた最後の表情がこびりついている。 力が入らない……僕は崩れるようにしゃがみ込む。 大丈夫か……? アレは本当に死者だったのか? そうだ……ちゃんと切り分けをしていない。 生者と死者を視分ける為の放電をしていない。 本当に死者ならば、放った電気は僕との間を赤い光が繋ぐはず。 それをやっていない。 本当は生者だったら……実は本物のジャッキーさんだったらどうしよう。 僕は人を殺してしまったんじゃないか? 怖い……怖い……誰か……違うって言って……助けて……弥生さん……! 頭を抱えて蹲るしか出来ない、身体の震えが止まらない。 ゴオォォンッッッ!!! なんだ!? 突如聞こえた耳を劈く(つんざく)轟音と、地震のような大きな揺れ。 キッチンの床で頭を抱えていた僕は、恐る恐る顔を上げた。 誰も……いないはず……弥生さんも……最初に視えた赤黒いナニカも、今はココにない……はずだったのに。 「よぉ、エイミーちゃん!」 見上げたキッチンカウンター。 そこから身を乗り出して覗き込んでくるのは弥生さんだった。
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