第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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【てんてんてん まじょりかびあんこ にごってきた】 濁ってきた……? ウチが……? でもそうだ、そろそろ……限界。 いつまでこうしていればいいんだろう? どのくらい時間が経っただろう? ジャッキ、助けに来てよ。 岡村、助けに来てよ。 大倉弥生は……本当に助けてくれるのかな? あの子は……ウチを”絶対に守る”って言ってた。 あの目にウソはなかった……気がする。 今となっては、よく思い出せない。 もしかしたらウチの勘違いかも……だって、ウチがいなくなれば、大倉弥生はジャッキと一緒になれるんだ。 現世でキスして抱き合って、生者なら子供をつくる事だって出来る。 子供が出来たらジャッキと本当の家族になるんだろうな。 ちゃんと結婚して、現世は辛くて怖い場所だけど、それでも幸せに暮らすんだろうな。 みんなみんな、ウチがいなければ叶う願いだ。 ジャッキは一度死んで黄泉に来た。 だけど今は生者で、大倉弥生も生者で、ウチだけが死者なんだ。 もしかして……邪魔者はウチなのかな……? 【まじょりかびあんこ にごる ニゴル センがはいル】 ヤヨイが何か言っている。 大倉弥生と同じ顔。 本当はウチを守るの嫌なんじゃないかな? ごめんね、もういいよ。 ウチを置いてヤヨイだけ逃げて。 【まじょりか ヤヨイみて まもるよ まじょりか ジャッキのだいじ やよいのだいじ だから ヤヨイにもだいじなコ】 『ジャッキの大事? 大倉弥生の大事? ウチが? 違うよ、ウチは邪魔者なんだ』 【チガウ まじょりか ヤヨイみて にごル にゴる ニごる ニゴリが またツヨクなってきた】 …… ………… バラカスが言ってたな。 男と女は違うって。 男は腕力(ちから)は強いけど気持ちは弱い。 女は腕力(ちから)は弱いけど気持ちは強い。 めでたしめでたしのおとぎ話には続きがある。 現実がある。 愛は成就よりも継続が難しい。 現世に八年も独りでいるジャッキは、もしかしたら悪さをするかしれない。 現世は辛い場所で黄泉とは違う。 生者は生きるだけで沢山の困難がある。 それに耐えられない時もあるんだって。 話をいっぱい聞いてやれ、腹が立っても包んでやれ、そのかわり、いつかジャッキが戻ってきたら、好きなだけ甘えれば良いって。 ジャッキも本当は、現世で辛かったんだろうな。 八年毎晩お喋りしてたけど、ジャッキが愚痴を言う事は一度もなかった。 『マジョの話が聞きたいな』って、ウチばっかり話してた。 『男なんて話すより聞くのが好きなんだ』って、そういうものかと思ってた。 だからジャッキの話を聞き出そうともしなかったし、そんな考えすら浮かばなかった。 ジャッキが現世でどんな生活をしてるのか、何が楽しくて、何が辛くて、何に困って、何に喜ぶのか……ウチ、具体的には何にも知らないんだ。 黄泉の国で知り合った平蔵は、ジャッキの会社の元代表で、成仏しないでまだ一緒に働いてるって言ってた。 ジャッキのコト、ウチよりもいっぱい知ってた。 ウチ、ジャッキの後輩なのに岡村の事も知らなかった。 大倉弥生はいっぱい知ってるのかな。 ジャッキの話、いっぱい聞いてあげてたのかな。 無茶ばかり言う霊媒師。 死者の為に一生懸命になれる優しい子。 あの子はジャッキにも一生懸命だったのかな。 ジャッキは辛い現世で、あの子に救われてたのかな。 …… ………… やっぱりウチが邪魔者だ。
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