第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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両手両五指、一回、十発。 霊矢を延々連射させていた。 巨峰大盛はもちろん、ワラワラノソノソ、鈍く動く、その他の巨峰野郎共にも。 てか、霊矢(コレ)いつ撃ち止めになるんだろ? 弥生さんが「スゲェなっ!」って笑ってる。 本当? コレすごいの? いつ矢が尽きるのか限界量が分からない。 かといって身体に負担らしきものは何もない。 僕の意思で止めるまで、いくらでも撃てそうなんだよね。 まぁ、いいや。 足りないよりは良いだろう。 それにしても、やりすぎだろうか? でもさ、完全にトドメをささないと、霊矢を受けたグチャったビジュアルで反撃されても怖いじゃない。 目の前の巨峰野郎共は、中身がヘドロの水風船が次々潰れるように、粘度の高い黒い汁を撒き散らしながら、視る視るうちに萎んでいって、しまいには濃霧となって飛散した。 「うぅぅ……今回もちょっとグロかった……気持ち悪ぅ」 ギェェェェッ! 耳に残る断末魔。 負の輪唱を聞きながらの滅し作業は、悪霊初心者の僕にとって気分が下がるばかりだった。 だけど、これでマジョリカさんとヤヨちゃんを助ける事が出来たのだ。 ”期待の新人”なんて言われながら、”テヘ、実は放電しか出来ません!”という恥ずかしいスキルだったけど、ちょっとは進歩したって言ってもいいよね? ああん、早く先代に報告したい。 先代は誰かを褒めさせたら右に出る者はいないくらい、甘々でベタ褒めしてくれる。 僕は褒められて伸びるタイプなんだ。 それにしても……今の僕は大変なコトになっている。 跳弾ならぬ跳汁(・・)を浴び、全身ドロドロのネチョネチョで、悪霊亡き後、卵型の結界から出てきた二人に「大丈夫?」と声を掛けた途端、僕を視たマジョリカさんの悲鳴が響き渡ったのだ(このあと弥生さんに浄化してもらったよ!)。 弥生さんといえば、ちゃっかり自分だけ防護陣を展開させて、跳汁を浴びる事なく免れていた。 ちなみに防御陣はジャッキーさんが展開させるモノと同じタイプ。 ジャッキーさんが好きすぎて、同じスキルを習得したいと必死に頑張ったらしい……こういうトコロ、本当に恋する乙女なのだ。 巨峰野郎共がいなくなり、ヤヨちゃんがテテテと僕に近付いた。 そして、 【えいみ ありがと えいみ すき】 と、お花のような笑顔と”すき”の文字、最高のご褒美をいただいた。 やん、可愛い! ヤヨちゃんの為なら、僕、頑張っちゃう! 僕がヤヨちゃんとキャッキャウフフしてる中、マジョリカさんは俯いたままだった。 無理もない、こんなんでも一応霊媒師の僕でさえ引くのだから、悪霊に囲まれて気分が悪くなってしまったのだろう。 お水でも汲んできて「飲んでください」と声を掛けてみようか。 死者の方だから基本飲食は出来ないけど、生者が「お飲みなさい」なり「お食べなさい」と声を掛ければ味わう事が出来る。 「マジョリカ……」 防御陣を解除した弥生さんが、眉を寄せていた。 美しすぎるマジョリカさんをジッと視て、驚愕した表情を隠せないでいる。 しゃがみ込んだマジョリカさんは、返事もせずに俯いたままだ。 「どうしたの、」 弥生さんに声を掛けたが、答えてくれたのはヤヨちゃんの降らす文字だった。 【まじょりか にごった ココロがおれた】 え……? 心が、折れた……?
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