第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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「ん……それはさ、マジョリカに心配かけたくなかったんだよ。好きだからこそ恰好つけたかったんだ。死者だからとか、話しても分からないとか、アイツはそんな事は絶対に思ってない」 心配を掛けたくないか……当然これもあるよ。 ただ、マジョリカさんには言えないけど、仕事の件に関してはどうしたって、同じ会社で同じ霊媒師である弥生さんの方が話しやすいんだと思う。 死者とか生者とかじゃない、たとえマジョリカさんが生者だったとしてもだ。 仕事ってそれぞれ独自のものがあるじゃない。 それこそ同じ会社、同じ部署、同じ業務内容をこなしてる者同士じゃなきゃ通じない話はわんさかある。 ましてや、ジャッキーさんの霊媒師としての進退が危ぶまれたあの頃。 現役霊媒師であり、霊力スキルと戦闘能力が高く、フットワークもあり、少なくとも表面上のメンタルが強く、疲労に負けず、訓練そのものとジャッキーさん自身を支えサポートが出来る人間は、弥生さんしかいなかった。 厳しい言い方をすれば、あの件はマジョリカさんに話してもどうにもならない。 もしも話したとして、心配する奥さまに『大丈夫? 頑張ってね』そう言われるたび、「大丈夫だよ、」と答え続ける余裕もなかったのだろう。 『ウチだって知ってれば、ジャッキの役に立ちたかったよ。……大倉弥生は三カ月もジャッキと一緒に訓練したんだよね、』 「……うん、訓練の性質上サポートは絶対に必要だったから、」 『サポートは大倉弥生じゃなくちゃ駄目だったの? 他の人……平蔵でも良かったじゃない。大倉弥生が名乗り出たの?』 そう言えば……どうして弥生さんがサポートになったのかは聞いていない。 「アタシがサポートに着いたのは、アタシが自分で……いや、ごめん。もう嘘はつかない。ジャッキーが指名したんだ。アタシを着けろって。だけどあの頃のジャッキーはアタシを好きとは思ってない。スキルを買われただけだ」 ジャッキーさんの指名だったんだ。 確かに訓練が始まる前は、まだ弥生さんを好きになってはいない。 だけどその頃からすでに、ジャッキーさんは常に希死念慮を抱えていた。 必要だったのは弥生さんのスキルか、それとも”今日だけは生きてみよう”と思わせる力か、はたまたその……両方、だろうな。 『ウチ……ジャッキが大好きで、ジャッキを取り戻したくて現世まで来たのに……もう分からなくなっちゃったよ。ウチは17で死んだから……それまで親に守られてきたから……現世がこんなに大変な場所だって、頭では理解してたけど、目の当たりにして怖くなった。ジャッキはこんなに怖い現世で独りで八年も生きてきて、きっと辛い事もいっぱいあって……それを救ったのはウチじゃない。大倉弥生なんだ。同じ生者だから、同じ現世に生きてるから。ウチなんていらないんだ、』 そういって泣きじゃくるマジョリカさん。 弥生さんは何も言えずにしゃがみ込んだままだ。 この状況、一体どうしたらいいんだろう。
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