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数歩の距離の向こう。
弥生さんを抱えたヒョウさんに飛び掛かったが、かわされ転び、無様に床に這いつくばった、が、落ち込んでる暇はない、すぐに起き上がる。
絶対に弥生さんを助けるんだ……!
だが僕の腕力に期待は出来ない、霊攻撃も駄目、ならどうしたらいい?
考えろ、考えるんだ。
フルで脳ミソを回転させる、と、その時、視界の端に紫色に光る文字を視た。
【やよい タスける ジャッキごと 殺ル】
再びヤヨちゃんの手の中で、濃紫の電塊が凶悪なまでに唸りを上げていた。
あどけないはずの幼女の顔は般若の如くだ。
「ヤヨちゃん駄目だ! 頼む、頼むから!」
【ヤヨイのそんざいイギ やよいを守るコト やよいだけ まもるコト】
ちっちゃな手の中の電塊は、ブンッという音をさせると大きな剣に姿を変えた。
般若の幼女はそれを持ったまま大きく腰を反らせる。
予想がつく、きっとあの腰を勢いよく戻す力を利用して、剣を発射させる気なんだ。
だがそんな事をしたら……
基本的に生者に対しての霊武器は、術者の霊力によって殺傷能力が変わる。
一般的な霊力を持つ霊媒師が構築する霊武器では、生者にダメージは与えるものの(ちょっと叩かれた?くらいの)殺傷するまでの威力はない。
だけど……沢山の元神候補の霊力と弥生さんの霊力が混ざり合ったヤヨちゃんの霊力ではきっと殺傷してしまう。
なにより弥生さんの焦り方が尋常じゃない。
「チガウッ! ヤヨちゃんの存在意義はそれだけじゃないよ! そりゃ今まで何百回も助けてもらった、感謝してる。だけどそれ以上にさ、ヤヨちゃんがアタシに甘えてくれて、抱っこをせがんでくれて、笑ってくれて、一緒にいてくれるのがすごく幸せなんだ。アタシを愛してくれる、アタシもヤヨちゃんを愛してる、それがアタシを支えてる」
必死に訴える弥生さんの大きな声にヤヨちゃんの動きが止まった。
弥生さんはまだ続ける。
「ヤヨちゃんはアタシの娘みたいに大事な子だ。そんな子に人を傷付けさせたくない。ヤヨちゃんはジャッキーが好きって言ったじゃないか。アタシを守る為にアイツを傷付けたら、後から絶対に自分を責める、アタシに内緒で泣くんだよ。嫌だよ、ヤヨちゃんが悲しい思いするのは絶対に嫌だ。ねぇ、信じて? アタシ、ジャッキーから悪霊を剥がすから。髪くらいはくれてやる、だけど心臓はやらない、アタシは死なない。ねぇ、せめて夜明けまで待って? 明るくなっても剥がせなかったら、その時はもう止めないから、それまでになんとかするから、ねぇお願い、」
ヒョウさんはそれを黙って聞いていた。
自分を滅しようとするヤヨちゃんを、弥生さん自ら止めてくれるのだ。
邪魔する必要がどこにある。
ヒョウさんは口角を上げながら、ただただ静聴に徹していた。
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