第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

157/222
前へ
/2550ページ
次へ
数歩の距離の向こう。 弥生さんを抱えたヒョウさんに飛び掛かったが、かわされ転び、無様に床に這いつくばった、が、落ち込んでる暇はない、すぐに起き上がる。 絶対に弥生さんを助けるんだ……! だが僕の腕力に期待は出来ない、霊攻撃も駄目、ならどうしたらいい? 考えろ、考えるんだ。 フルで脳ミソを回転させる、と、その時、視界の端に紫色に光る文字を視た。 【やよい タスける ジャッキごと ()ル】 再びヤヨちゃんの手の中で、濃紫の電塊が凶悪なまでに唸りを上げていた。 あどけないはずの幼女の顔は般若の如くだ。 「ヤヨちゃん駄目だ! 頼む、頼むから!」 【ヤヨイのそんざいイギ やよいを守るコト やよいだけ まもるコト】 ちっちゃな手の中の電塊は、ブンッという音をさせると大きな剣に姿を変えた。 般若の幼女はそれを持ったまま大きく腰を反らせる。 予想がつく、きっとあの腰を勢いよく戻す力を利用して、剣を発射させる気なんだ。 だがそんな事をしたら…… 基本的に生者に対しての霊武器は、術者の霊力(ちから)によって殺傷能力が変わる。 一般的な霊力(ちから)を持つ霊媒師が構築する霊武器では、生者にダメージは与えるものの(ちょっと叩かれた?くらいの)殺傷するまでの威力はない。 だけど……沢山の元神候補の霊力(ちから)と弥生さんの霊力(ちから)が混ざり合ったヤヨちゃんの霊力(ちから)ではきっと殺傷してしまう。 なにより弥生さんの焦り方が尋常じゃない。 「チガウッ! ヤヨちゃんの存在意義はそれだけじゃないよ! そりゃ今まで何百回も助けてもらった、感謝してる。だけどそれ以上にさ、ヤヨちゃんがアタシに甘えてくれて、抱っこをせがんでくれて、笑ってくれて、一緒にいてくれるのがすごく幸せなんだ。アタシを愛してくれる、アタシもヤヨちゃんを愛してる、それがアタシを支えてる」 必死に訴える弥生さんの大きな声にヤヨちゃんの動きが止まった。 弥生さんはまだ続ける。 「ヤヨちゃんはアタシの娘みたいに大事な子だ。そんな子に人を傷付けさせたくない。ヤヨちゃんはジャッキーが好きって言ったじゃないか。アタシを守る為にアイツを傷付けたら、後から絶対に自分を責める、アタシに内緒で泣くんだよ。嫌だよ、ヤヨちゃんが悲しい思いするのは絶対に嫌だ。ねぇ、信じて? アタシ、ジャッキーから悪霊(コイツ)を剥がすから。髪くらいはくれてやる、だけど心臓はやらない、アタシは死なない。ねぇ、せめて夜明けまで待って? 明るくなっても剥がせなかったら、その時はもう止めないから、それまでになんとかするから、ねぇお願い、」 ヒョウさんはそれを黙って聞いていた。 自分を滅しようとするヤヨちゃんを、弥生さん自ら止めてくれるのだ。 邪魔する必要がどこにある。 ヒョウさん(ヤツ)は口角を上げながら、ただただ静聴に徹していた。
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2367人が本棚に入れています
本棚に追加