第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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【てんてんてん わかった よあけ それまで まつ】 般若の顔から能面に変わったヤヨちゃんは、弥生さんをジッと視つめていた。 夜明けまでは待つと言ったが……きっと、弥生さんが危なくなったら、その約束は簡単に破られるのだろう。 グズグズしていられない。 『志村を守る話は終わったかな? それじゃあ、まず髪を頂こうか。ああ……それと、心臓も頂くからそのつもりで。まあ、命が惜しくなったら志村なぞ見捨てればいいさ。それが出来るならね。さて……では、どこで髪を切ろうか、』 勝手極まりない言葉を吐き散らかすヒョウさんが、キョロキョロと辺りを視わたした。 目線が自分から外れた弥生さんは、チラリと僕を見た。 ____ダイジョブ、隙をついてぶっ飛ばす そう言っている目だ。 そうだよね、この人が大人しく髪を切らせるはずがない。 その時は援護しろと言いたいのだろう。 もちろんですとも。 ほぼ同時、紫色の結界の卵の内壁をドンドンと叩くマジョリカさんが、何か懸命に叫び出した。 音に反応したヒョウさん人は、視線を泳がせ間もなくして、卵の中の宇宙色の髪に気付いてしまう。 『ああ……そう言えば、もう一人いたな。生者ではないが、あの髪も美しい』 ニィッと口元を歪ませて、美しすぎる死者を凝視しているのだが……クソッ! マジョリカさん、今は大人しくしててほしかった、が、もう遅い。 ヒョウさんの粘つく視線はマジョリカさんもターゲットに加えたようだ。 ヤヨちゃんではないが、この状況でジャッキーさんを無傷で救出するのは不可能だよ。 マジョリカさんはまだ叫び続けているも、結界に阻まれ声は聞こえない。 ヤヨちゃんは、そんなマジョリカさんを眺め、少し考えてから卵に向かって、ちっちゃな足をタンと鳴らした。 するとマジョリカさんの声が外に聞こえるようになった。 『ジャッキ! ねぇジャッキ! 目を覚まして! 大倉弥生に酷い事しないで! 悪霊(ソイツ)を止めてよ、助けてよ! 大倉はウチを助けてくれたんだ! 悔しいけどウチじゃ大倉を助けられない、ジャッキお願い! 目を覚まして! ねぇジャッキってば!!』 ピアノのハイキーボイスが叫んでる。 高い声は頭の中で反響するようだった。 頭蓋骨の内側、四方八方、マジョリカさんの声が跳ね返る。 だがそれは決して不快には感じない、むしろ____ 「…………マジョ……?」 え……!? 今のは(・・・)ジャッキーさんか? 大きな身体は弥生さんを抱え、ふらつきながら頭を横に振っている。 ギュッと目を閉じすぐに開けたあの表情は……ヒョウさんではない、ジャッキーさんだ。 ウソだろ……? ジャッキーさんの腕の中、あれほど至近距離にいる弥生さんの声には反応しなかったのに、マジョリカさんの声には反応したのか。 『ジャッキ! 気が付いたんだね! ねぇ、もっとちゃんと目を覚まして! 大倉を降ろしてあげて! それからジャッキの中に悪霊がいるよ、ソイツを追い出して! ジャッキ頑張って、お願い!!』 卵の内側をドンドン叩く小さな手は真っ赤になっている。 それでもマジョリカさんは、やめなかった。 ジャッキーさんの覚醒と弥生さんの安全を切に願って、叫び続けている。 ああ、透き通る湖を思わせる声。 澄みきって穢れのない、どんなに荒んだ心も癒し浄化させてしまう声だ。
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