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「マジョ……本当にマジョなのか……? 自分は夢を見てるのか……?」
掠れた声に疲労が色濃く出ている。
覚醒しきれない表情のジャッキーさんは、目を細め、マジョリカさんのいる結界の卵を視た。
紫色の透明な壁面に彼女は両手をつけ、必死にジャッキーさんに話しかけていた。
『ジャッキ、ごめんね、ウチ、どうしても逢いたくて来ちゃったんだ。もう逢えないなんて言わないでよ、ちゃんと話そ? ジャッキ、ああ、ジャッキ……もっとよく顔視せて……ウチ、ずっとジャッキに逢いたかった、顔が視たかった、ウチはジャッキの事が、……ああ、ダメ、そんな話は後だ。ねぇ、先に大倉を降ろしてあげて。そっとだよ、落とさないように、優しく、』
意識がまだ途切れ途切れのようで反応が遅い。
それでもマジョリカさんに言われ、腕の中の弥生さんを見たジャッキーさんは、
「弥生も……なんで二人が家にいるんだ、」
言いながら弥生さんを床に降ろした。
マジョリカさんは、その様子を視ながら泣いていた。
ジャッキーさんに逢えた事、そして ”大倉弥生を助けてあげて” と言った言葉にウソがないからなんだと思う。
無事に降ろしてもらった弥生さんにホッとしたのだろう。
床の上に自身の脚で立った弥生さんは俯いて、一瞬複雑な顔をしたのを僕は見逃さなかった。
マジョリカさんによって引き戻されたジャッキーさんに、思う所があるのだろう。
だが、それを上書きするかの如く、すぐに不敵な笑みを浮かべこう言った。
「ジャッキー。アンタ鈍ったんじゃないか? 悪霊に身体を乗っ取られるなんて、ツーマンセルを組んでた頃には無かったのにさ。おかげで余計な手間がかかったよ、」
やれやれと肩をすくめて目を細め、ついでに顎まで上ちゃって、口元は三日月の挑発的な表情。
ジャッキーさんはそんな弥生さんにこう答えた。
「……ああ、すまない。ここ五年在宅勤務で、現場は依代フィギュアがメインだからな。生身の身体の実践は久し振りでしくじった。…………なぁ、弥生。自分、乗っ取られている間……迷惑をかけたんだろう? ごめんな」
だいぶ覚醒されたのか、目の焦点も合ってきた。
ジャッキーさんに頭を下げられ、弥生さんは慌てたようにそっぽを向いた。
「べ、別に、迷惑ってほどじゃないさ。ジャッキーに憑りついた悪霊もさ、あまりにも剥がせないようなら、アンタごとぶっ飛ばすつもりでいたんだ」
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