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明るく笑う弥生さん。
ジャッキーさんはなんとも言えない表情だ。
そして、
「……弥生、マジョ、心配かけてすまなかった。そうだな……話をしないとな。だがその前に、中にいる悪霊を剥がしたい。これから自分が外に出すから、弥生が滅してくれないか」
弥生さんはコクリと頷くと、拳を握り小さな声で言霊を唱え、紫色に鈍く光る霊刀を出現させた。
僕もサポートとして霊矢の印を結び待機する。
ヒョウさんを追い出す為、ゴツイ手指を絡め始めたジャッキーさん。
彼自身に霊力はないものの、光る道の欠片の力に印を組み合わせる事で、そこそこの霊力なら発動可能だ。
但し、この方法は術者の体力、気力、精神力をひどく消耗させる。
そう何度も使っていい霊力じゃない。
印の途中で、突如ジャッキーさんは動きを止めた。
そして猫がそうするように、二、三ゆっくりと瞬きをして最後にギュゥっと目を閉じてまた開ける。
さっきまで浴槽の中に押し込められていたし、ヒョウさんに乗っ取られてたしで、体調が思わしくないのかもしれない……と思った矢先、ガクッとジャッキーさんがよろめいた。
「大丈夫かっ!」
『ジャッキッ!』
女性二人の声が重なる。
ヤヨちゃんはその後ろで、再びちっちゃな足をタンと鳴らした。
すると美しき死者を守っていた結界が砕けて解けた。
先に走り寄ったのは弥生さんだった。
少し遅れてマジョリカさんも続く。
「ジャッキー、肩につかまれ、」
弥生さんはジャッキーさんの腕を自分の肩に乗せ、脱衣所内のベンチに誘導しようとした。
だけど、
「ありがとう、大丈夫。ただの立ち眩みだよ。追い出すのは後にして、先にキッチンへ行ってもいいかい? 水を一杯飲みたいんだ。ああ、心配しないで。そのくらい歩けるから」
弥生さんの肩から腕をどけ、ジャッキーさんはフラリフラリとキッチンへと向かう。
『ジャッキ……大丈夫かな、』
心配そうなマジョリカさんがジャッキーさんの後ろを追った。
弥生さんは、ジャッキーさんの背中をジッと視詰め、やはりその後を追った。
僕とヤヨちゃんも同様だ。
シンクの前に立つジャッキーさんはコップに溢れる程の水を汲み、ゴクゴクと飲んでいる。
一杯、二杯、三杯、ようやく満足したのか、空いたコップをガンッと調理台に置いた。
ジャッキーさんの傍で、モジモジしながら立っているのはマジョリカさんだ。
白い肌に赤みがさして、ぽーっとした目でジャッキーさんを視つめている。
そうだよね、八年振りに逢えたんだもの。
色々言いたい事はあるだろうけど、それでもやっぱり嬉しいよね。
もう少し待っててください。
完全に悪霊を剥がすから。
「マジョリカ、ちょっとこっちに来てくれない? アタシ、あんたに視せたいモノがあるんだ」
突然だ。
キッチンと続く間取りのリビングで、弥生さんが絶世の美死者に声を掛けた。
視せたいモノって何?
弥生さんはリビング中央のローテーブルの上にある、飲みかけの炭酸水のビン、ジャッキー・〇ェン自伝本(ジャッキーさんはジャッキー・〇ェンさんマジリスペクトだからね)を、順番に指でさわっている。
もしかして……その自伝本を見せたいの?
って、そんな訳ないか。
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