第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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◆ 僕達フォーマンセルは、弥生さんとジャッキーさんが戦闘訓練を重ねた公園へと急いでいた。 ジャッキーさんの魂に癒着した”光る道の欠片効果”で、辺り一帯範囲を広げながら集めてしまうであろう悪霊達。 どのくらい集まってしまうのかは未知数だ。 弥生さんは最初、マジョリカさんに家に残るように勧めた。 宅内に潜んでいた悪霊の残りをヤヨちゃんが瞬殺し、弥生さんはその間に植物結界を張り直した。 こうしておけば、新たな悪霊が侵入してくる事はない。 マジョリカさんにとって安心安全な場所になるのだ。 巨峰野郎共を目の当たりに、あまりの怖さとキモさに心が折れたマジョリカさんは黒く濁りかけた。 今はもう復活し真っ白キラキラらしいけど、公園で悪霊の大群を前にしたらまた心が折れる可能性がある。 それを心配したのだが…… 『ウチがいたら足手まといなのは分かってるし、みんなには申し訳ないと思ってる。だけど……ジャッキの傍にいたいよ……お願い、大倉! ウチも一緒に連れてって!』 必死にお願いするマジョリカさんに弥生さんが折れた。 「分かった……連れていくよ。そりゃあジャッキーの傍にいたいよな、当然だ。大丈夫、連れてくからには絶対に守るから。安心しとけ」 鋭い目付きで力強く答えた弥生さんに、『ア、アリガト』とマジョリカさんは顔を赤らめた。 ん、まぁね、ちょっと気持ちは分かる。 弥生さんって下手な男よりカッコイイ時あるもんね。 かと思うと、姐御だったり妹だったり母親だったり……引き出し多っ! 公園までの道のり。 最初はみんな走ってたんだけど、そのうち僕だけ息が切れて、早歩きにしてもらった(マジョリカさんとヤヨちゃんは霊体で無限スタミナ。弥生さんは生者なのにスタミナお化け)。 なもんで、僕の隣を歩くマジョリカさんに、ちょっと疑問を投げかけてみた。 「マジョリカさんって、現世なのに日本語うまいけど勉強してきたんですか?」 前にジャッキーさんに聞いたコトがある。 黄泉の国ではバラカスさんの造った同時翻訳システムがあるから、言語の壁が無いって。 だけどココ現世よ? そんなステキなシステムはない。 なのにめっちゃ流暢な日本語を話すし、僕達の話す事も難なく理解してるんだ。 『ううん、勉強はしてない。言葉はね、コレ(・・)のおかげで解るんだ』 そう言って、首にさがる星型のペンダントを指さした。 『これはね、身に着けるタイプの個人用同時翻訳機器なの。バラカスが黄泉の国に来る前は、死者(みんな)これを使ってた。バラカスに現世に行くって言ったら、ウチが困らないように、昔の機器引っ張り出してペンダントに改造してくれたんだ。ウチね、ずっとイタリア語で話してるんだよ。だけど岡村の耳には日本語に聞こえるでしょ?』 「聞こえる! 100パー日本語だよ! ん? てことは、僕もずっと日本語で話してるけど……』 『うん、ウチには流暢なイタリア語に聞こえる。このペンダントはね、翻訳だけじゃないんだ。ウチ専用にカスタマイズしてくれて、バラカスとだけだけど通信も出来るようにしてくれた。とはいっても、一回分の回線しか確保してないから、本当に困った時だけ使えって言われたんだけどね』 「バラカスさんってスゴイ! 超ハイレベルな技術屋さんだ!」 『ふふふ、バラカスを褒めてもらうと嬉しい。本当にアイツはスゴイんだ。なんでも造っちゃうんだから。あ……でもね、けっこうロマンチックな所もあるんだよ。バラカスはずーっと長い間、ウチの幸せを星に願ってくれて、20136回目でやっと聞き届けられたの。……星はね、ウチに幸せをもたらすのはジャッキだと言ったんだ。星は千年先まで予言する、』 千年先まで予言か……黄泉の国は永遠の時を刻む。 そう思えば千年という単位も、決して大袈裟な話ではないんだろうな。 『ねぇ、岡村。星は滅多に願いを叶えない。そのかわり、決して嘘をつかないんだ。その星がウチとジャッキが幸せになると言ったの。予言した八年前、星は未来に大倉弥生が現れる事も知っていたはずなのに。ねぇ、岡村。ウチとジャッキと大倉、この先……三人はどうなっていくんだろうね、』 本当に……どうなるんだろうな。 今は星しか知らないその答えは、いつになったら解き明かされるのだろう。
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