第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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◆ AM4:14 漆黒の空が藍色に変わりつつある。 夜明けが近い。 古くて寂れているものの広さだけはある公園は、先程までの閑散さが嘘のようだった。 今この公園は、人気アイドルのゲリラライブかってくらい、悪霊達が集まりまくってギュウギュウだ。 公園入り口に立つ、僕らフォーマンセルが入る余地がない。 これには僕とマジョリカさんも顔を見合わせた。 二人ともめちゃくちゃ引いている、てか、怖っ。 だがしかし、こんな時だからこそ和んでもらおうと「なんか僕、オナカ痛くなってきたんで帰ります」と冗談を言ったら、真面目な顔で『あ、ウチも』と返された。 それを聞いていた弥生さんは、 「マジョリカ、怖かったら無理しなくていいからな。ヤヨちゃんとジャッキーの家に戻っててもいい。必ずアイツを連れて帰るから安心して待ってろ。あ、エイミーちゃんは駄目だぞ、ずっとアタシと一緒だ!」 と笑う。 ちょ、”ずっとアタシと一緒”とか言わないでよね。 ドキドキしちゃうでしょうよ。 弥生さんからしたら、全然そんな意味じゃないだろうけど、それでも僕のやる気は俄然上がった。 『ウ、ウチ、帰らないよ! こ、怖くないもん!』 ササッとヤヨちゃんの手を握り、顔を横にフルフルしながら『帰らない!』と言い張る様子は、本人は必死なんだろうけど、なんだか可愛くて笑ってしまう。 この公園に最初に降り立った時、冷たい表情と悲痛な泣き顔を視せていたのに……今は表情に険がない。 弥生さんにしてもそうだ。 この人らしくないくらい気を遣い、ジャッキーさんの為にウソをつき、涙を堪えて辛い顔をしていた……けど今は「わかった、わかった」と笑ってる。 マジョリカさんとジャッキーさんと弥生さん。 まだ何も解決してないけど、それぞれの気持ちは、少しずつ変化してるのかもしれない。 「しかしまぁ、真っ黒だなっ! どいつもこいつも悪霊かよ!」 弥生さんの声が弾んでる。 えぇ? この状況で楽しそうってナニ? 僕の目には七割は生者の見た目(但し、全員悪そうな顔)、残る三割は妖怪化してるのか、巨峰野郎をはじめとした異形達が映る。 これだけの悪霊が公園に集まってるって事は、身体を乗っ取られたジャッキーさんが、どうにかして憑依の人をココに誘導した証。 この悪霊だかりの何処かにいるはずだ。 早くジャッキーさんを見つけたい。 ゲリラライブかコミケかってくらいの混雑ぶりなのだが、生者避けの結界が効いてるのだろう、まわりに人は誰もいない。 霊媒師にとって好環境だ。 弥生さんは小さく言霊を唱えると、紫色に光る霊刀を出現させた。 「ヤヨちゃん、マジョリカに結界を。エイミーちゃんとアタシは、まず悪霊(こいつら)を全滅させる。これじゃあ、視界も悪いしジャッキーを見つけられないからな」 先に切り分けをしたい所だけど、この数ではキリがない。 「弥生さん、ここにいるのは全員、黒タイツ野郎共でOK?」 「ああ、OKだ」 「分かった、じゃあみんな悪霊だね。ねぇ、僕は生まれてから一度も誰かと喧嘩をした事がないんだ。初心者の僕に喧嘩のアドバイスはある?」 超平和主義の僕は口喧嘩だって負ける。 いきなりこんな大人数に二人だけで突っ込んでいくとか、正気の沙汰とは思えない。 でも、行くよ。 弥生さんだけに行かす訳にはいかないもの。 「アドバイスか。ん、そうね。大声で威嚇しろ、重心は低く、殴る時に遠慮はするな、かな」 また雑な説明だな……でも大声で威嚇だけは分かり易い。 格闘技のみなさんも声出してるもんね。 「分かった、頑張ってみる!」 「いい返事。エイミーちゃんの霊矢があれば大丈夫だよ。危なかったら助けるし、アタシの事も助けてくれ。ヨシ、じゃあ、そろそろ行くか!____さあ! 喧嘩のお時間です!」
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