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どのくらい時間がたったのか。
感覚的に随分と長い時がたったように感じていた。
だが、実際はそうでもないのかもしれない。
空はまだ漆黒と藍色が仲良く共存しているもの。
僕と弥生さんは背中合わせに立っていた。
二人を中心にドーナツ状、倒した悪霊が山となり、その下段から順に濃霧と化しているところだ。
「はぁ……はぁ……」
さすがの弥生さんも息が上がってる。
そういう僕も、
「ゼイ……ゼイ……ゼイ……カヒュー……ヒョヒョー……シュコー」
弥生さんの三倍、息が上がっていた。
辺り一帯、滅した悪霊達の濃霧で立ち込めていた。
まだ霧になる前の霊体は時折ビクンビクンと痙攣している。
視るのも躊躇してしまう惨劇の向こう側。
腕を組み、血走らせた目で僕らを凝視するジャッキーさんがいた。
否、あの表情……まだヒョウさんだ。
呼んだ仲間が全滅して、すこぶるお怒りのご様子。
『せっかく集まった同胞達……全員いなくなってしまった』
確かにジャッキーさんの声なのに、そこに欠片の優しさはなく、まるで地獄の底から響くような不気味さだ。
それは”同胞”が滅された事を悲しむのでなく、手駒が無くなった喪失感のように感じた。
「あんたの”同胞”って質より量だな。みんな弱かったぞ? つーかさ、アンタってこの辺の悪霊の頭なの? いかにも小物でそんな風には視えないけど」
もう呼吸が通常に戻ってる。
どんだけタフなんだ……と思いつつ、ヒョウさんの返事を待っていた。
『俺がトップという訳じゃないよ。ただ、志村の中には悪霊を呼び寄せる宝石が眠っている。同胞達はこの宝石を有する入れ物を、トップだと勘違いしているようだ。おかげで、そこそこ指示に従ってくれた……なのに、』
ヒョウさんは無表情で公園を見渡す。
悪霊達の発する最後の霧は、濃く、嫌な臭いをさせながら、宙に静止し、やがて飛散する。
その一連の流れをただただ眺め、口をへの字にさせていた。
「勘違いねぇ。アレだ、ほら、虎の威を借りる狐って奴。ジャッキーの光る道の欠片を使って、まるで大物みたいな振る舞いだ。一人戦いもせず、はじっこに隠れて高見の見物。セコイな、まったく。良い大人が恥ずかしくないのか?」
黒い液体でベトついた霊刀を、姐御は霊力で浄化しながら、片手間でヒョウさんを馬鹿にする。
なかなかどうして、水渦さんバリの嫌味っぷりだ。
普段、誰かをあえて傷付けようとはしないのに、余程ヒョウさんが許せないのだろう。
弥生さんの嫌味に無言で返すヒョウさんに、今度は僕が話しかけた。
「ヒョウさん、もうアナタのお仲間はいなくなりました。これ以上ジャッキーさんの中に籠城してもいい事はなにもありません。大人しく返してくれませんか?」
返すと言ってくれたとして、弥生さんはきっとヒョウさんを許さない。
ジャッキーさんに害を成した悪霊を斬って捨てるのだろう。
ヒョウさんもそれに気付いてるはずだ。
やはり、素直に返してくれないか。
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