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『この辺りを彷徨っている霊は悪い連中ばかりだよ。黄泉の国に逝ける者など一人もいない。かといって他に逝く場もないから暇を潰し、自分の霊体がいずれ消滅するまで現世を彷徨うしかないんだ。我々は、命を持つ者が嫌いだ。愛だの友だの反吐が出る。一人でも多くの生者を不幸にしてやりたいと思っている』
随分と身勝手な言い分だな……反論してやりたいけど今は我慢だ。
取引に応じさせ、ジャッキーさんを取り戻すのが先だもの。
『生者を襲う霊達は個々で勝手に動いてる、いわば個人商店だ。組織化して協力して襲えばもっと不幸な生者が増やせるのに。ま、あの荒くれた連中をまとめられる者がいればね、組織化も実現可能なのだろうが。…………さて男、ここでおまえに問いたい。俺がおまえ達に見逃してもらい元の生活に戻るのと、志村の身体を返さずに、弥生の霊力を得るのとどちらが魅力的だと思う? 俺は後者だと思っている。霊力があれば、悪霊を統べる事が出来るから。さすれば効率的に生者を狩れるんだよ……クク』
コイツ……欲が出たのか。
最初と言ってる事が変わった。
ジャッキーさんの身体はすぐに返すと言っていたのに。
弥生さんの髪と心臓に目が眩んだんだ。
それに、そんな物騒な組織を作らせる訳にはいかないよ。
「約束が違うじゃないか」
弥生さんが凄む。
それに対しニィっと笑うヒョウさんは、
『気が変わったんだ』
とだけ答える。
僕は弥生さんに近づいて耳元に小声で聞いた。
「さっき家でジャッキーさんは『自分が外に追い出すから、弥生が滅してくれ』って言ってたよね? 悪霊を剥がすのってジャッキーさんが追い出すしか方法はないの? 弥生さんだけでは出来ないの?」
「……今回のはアタシだけじゃ出来ない。アイツの中がどうパーテーションされてるか分からないもの。手探りで悪霊剥がしをしたらジャッキーの魂まで削ってしまうかもしれない。多少削っても死にはしないけど……アイツの人格に影響が出る。魂は欠けた部分をカバーするのに再構築をかけるんだけど、そうなると確実に今のジャッキーじゃなくなる」
言葉には出さないが、ジャッキーさんが変わってしまうのは、絶対に嫌だという強い拒絶を感じる。
「……そうなんだ。じゃあ、ジャッキーさんが追い出すか、ヒョウさん自ら出てくれない事には、」
「分離不可能だ、」
マジか……
もうこれ、なんとしてもジャッキーさんに出てきてもらうしかないよ。
さっきはマジョリカさんの声に反応した。
もう一度呼びかけてもらうか……結界に入ったまま、大声で呼びかけてもらえばあるいは。
僕達が考えあぐねていると、二ヤついた顔のヒョウさんが揶揄うような口調でこう言った。
『さっそく弥生の髪と心臓を頂きたいのだが……大人しく裂かれてはくれないだろうなぁ。ならば動けなくなるまで疲れてもらおうか。さっきの同胞達、おそらく百体は優に超えていただろう。それをたったの二人でよく滅したよ。大したものだ。だが第二の同胞達はどうかな? すでに相当、霊力と体力を消耗してるだろうからねぇ、』
え……?
ちょっと、待って。
”第二の同胞”って……まさか、まだ呼べちゃったりするの……?
僕の不安は的中した。
ヒョウさんは左胸を幾度か叩き、口の中で何かブツブツと呟いている。
それから無言で睨み合う事数分。
空から、地面から、木の上から、ウンザリするほどの新たな悪霊達が、再び公園内を埋め尽くした。
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