第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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◆ 僕を庇おうとした弥生さんが振り払われた。 地面に叩きつけられるかと思いきや、受け身を取ってすぐに立つ。 あの人……本当に38か? スタミナと身体能力が並みじゃない。 喧嘩も強いし、元ヤンってマジパネェ。 とかなんとか。 強制的に意識を他に向けて現実逃避を試してみたけど、駄目っ! めっちゃ痛い! ジャッキーさんの身体を使って僕を叩くとか反則だよ! でも意外だった。 ジャッキーさんの丸太のような腕なら、ワンパンどころか平手一発で気絶すると思ったのに、一応意識はあるし、まだ立っている(但しヘンなテンションだけど)。 そして手の中の小宇宙も死守してる。 これ……弥生さんがいなかったら、僕一人だけだったら、きっとこんなに頑張れない。 マジョリカさんじゃないけどココロが折れて、今頃とっくに逃げ出してる。 一応僕も男の端くれ、弥生さんを置いて逃げるなんて出来ないし、したくない。 あーでも両手が使えないって辛い……口の中が鉄の味だ。 ついでにたぶん鼻血も出てる。 ティッシュ……ティッシュが欲しい。 『男……粘るな。さっさと赤い珠を手放せばいいものの。だが少し見直したよ。志村に殴られたら痛いだろう? よく耐えている』 僕を叩いた張本人に褒められてもねぇ、ぜんぜん嬉しくないよ。 褒めなくていいからもう叩かないでっ。 僕を守るべく、弥生さんが掴みかかって、また振り払われた。 ありがたいけど、あんまり無茶しないで。 だって入れ物はジャッキーさんなんだ。 きっと弥生さんは本気では叩けない……ん? いや、待てよ? さっきジャッキーさん()のキッチンでは凶器(ビン)でもって攻撃してた。 けっこう激しく叩いてたけど、まさかアレで手加減済みの攻撃とか言うのかな。 実際ジャッキーさんは、鋼の筋肉に守られてダメージ喰らって無さそうだったし。 元ヤンの手加減って……真面目な学生だった僕には理解不能だ。 「ジャッキー! なんとか表に(・・)出てきてくれ!」 必死の声だった。 弥生さんがジャッキーさんに向かって叫ぶ。 だけど、それに答えたのはヒョウさんだった。 『残念だなぁ、弥生。志村はおまえの声には無反応だ。さっきの死んでる女。髪が宇宙の女。アレには反応したのにな。あの女も志村が好きなのだろう? クク……惨めだなぁ、見た目も愛情もすべて弥生の負けだ。悔しいか? 妬ましいか? いいぞ、もっと心乱れろ。そうすれば髪に宿る霊力(ちから)が増すからな、』 弥生さんの目付きが変わった。 明らかに怒ってる。 『なんだ、図星でご立腹か? まぁ同情はするよ。死んでいるあの女。アレは何もしなくても、ただそこに居るだけで皆から愛される女だ。もちろん志村からもな。だが弥生はどうだ、ただそこに居るだけでは愛されない。おまえはガサツで下品な女だ。さっきの戦いを視ていれば分かる、』 馬鹿にしたような口調、弥生さんはただ黙って聞いていた。 『弥生は親に愛されたか? 愛されなかっただろう、これも分かるよ。なぜなら、その品の無さはロクな躾をされていない証拠、弥生なぞどうでもよかったんだ。おまえが誰かに愛してもらうには、今みたいに身を削って身体を張って必死になって気を引くしかない。志村を守る為、髪を振り乱し泥だらけで戦う、下手したら怪我をするかもしれないのに、命を落とすかもしれないのにだ。そうする事でしか愛を得られない。しかも僅かばかりのお情けの愛情だ……かわいそ、 ガハッ!!』 ……え? ヒョウさんの暴言が強制終了された。 止めたのは後方から飛んできた____ 【ダ】と【ま】と【レ】の三つの文字。 これがジャッキーさんの頭に直撃したのだ。
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