第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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タタタタ! ちっちゃなヤヨちゃんが、こちらに向かって全力で走ってくる。 その姿は散歩中の小型犬に似ていて、アンヨだけが高速回転するものの、走る速度はすこぶる遅い。 こんな時になんだけど……か、可愛いな。 本人も足が遅いのを自覚してるのかもしれない。 だから遠くから文字を飛ばして、先にヒョウさんを黙らせたのだろう。 そしてまだ夜は明けていない。 ____ねぇ、せめて夜明けまで待って、 ちゃんと弥生さんとの約束を守っているんだ。 そうでなければ、きっと剣を飛ばしてた。 しばらく待っての到着。 ようやく僕らの近くに来たヤヨちゃんは、ここから一気に喋り出す。 空から降る大量の文字は、集中豪雨の如くヒョウさんの上だけに降らされた。 【やよいのオヤいじわるダッタだからやよいワルクない!やよいはマジョリカよりビジンだよ!やよいはガサツでゲヒンなおんなジャないのゲンキなだけだもんカミヲふりみだすのドロダラケになるのケガスルかもしれないのイノチおとすかもシレナイノぜんぶぜんぶやよいがヤサシイからだもんダレカのためにガンバルんだもんやよいはヤヨイにやさしいよヤヨイにおしいいゴハンつくってくれるヤヨイをダッコしてくれるヤヨイをダイジにしてくれるタダノしきがみアツカイしないよムスメだっていってクレルやよいはいいこだもんヤヨイはやよいがだいすきだもんオマエなんかダイキライ!はやくジャッキからでていけ!】 さっきまでの羽のような文字とは違う。 一文字はリンゴくらいの大きさで、見た目よりも重さがあるのか、ジャッキーさんに落ちるたびに、ゴッ! ゴッ! と鈍い音をさせていた。 ちょ、待って、あれ、ジャッキーさんの身体、大丈夫かな? 剣のような殺傷力はないけど、あの量で落とされたらちょっとマズいんじゃない? 試しに地面に転がる文字を一つ蹴ってみると……重量感。 や、これ止めないと。 まだまだ喋りそうなヤヨちゃんに、とうとう弥生さんが動いた。 「ヤヨちゃん、もうやめてあげて。アタシは大丈夫だよ。何言われたって平気だ。だってヤヨちゃんが分かってくれる。それだけで充分だ。それにさ悪霊(コイツ)が言ってるコトは本当だもの。親に愛されなかったのも、誰かに愛されるには努力が必要なのも、あと下品でガサツなのもな、あはは。ほら、ヤヨちゃん、こっちにおいで。だっこしよ」 そう言って弥生さんが両手を広げると、ちっちゃな女の子は文字を止めてタタタと走り、飛び込むように抱き着いた。 「アタシの為にありがとね、ヤヨちゃん大好き。ん……本当はもう眠いだろう? 早く終わらせて、ねんねしような」 うん、と首を縦に振ったヤヨちゃんは、ちっちゃな手で目をゴシゴシさせて、弥生さんの首元に顔を押し付けた。 細っこいアンヨをプラプラさせて、時折天から【むにゃー】の文字を降らせてる。 「ヤバイ……限界が近いな……」 弥生さんがヤヨちゃんを抱っこしたまま独り言ちた。 「どういう事?」 僕がそう聞くと、 「ヤヨちゃんはそろそろ電池切れになる。黄泉の国の往復の後、アタシの中で寝かせたけどすぐに起こしただろ? 睡眠時間が足りてないんだ。ヤヨちゃんは子供だからな。眠すぎると強制的に寝落ちする。この甘えっぷりはそれが近い。せめて30分寝かせてあげられたら3時間は持つんだけどな……」 困ったように眉根を寄せる弥生さん。 僕はと言えば、 「……30分の急速充電で3時間動作するって、僕の持ってるワイヤレスヘッドホンと同じ仕様だ」 思わぬ共通点に、ほほーとなっていた。
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