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ガショッ!
肩に担いだパンツァーファウストを斜め上に構える。
弥生さん曰く、一発撃っての使い捨ての武器だから、連続して撃てるようにと、あらかじめ五本構築済みだ。
あとは次々撃てばいい。
もし余ったら僕にくれるというのだが、そんなモノまともに撃てるとは思わないので丁重にお断りしたのだ。
「エイミーちゃん、これから撃つから気合入れて踏ん張っててね。衝撃でヨロっとするかもしれない。その時に核となる赤い珠を落とさないように気を付けて、」
弥生さんからそう言われ、僕は肩幅大に足を開いて腰を落とす。
パンツァーファウスト一発で滅しきれば良いけど、そうでなかった場合、バランス崩して電気の塊を落としてしまったら、拘束の鎖が消えてしまう。
そんな事になったら、また戦闘開始だ。
何も言わないけど弥生さんは相当疲れてるはずなんだ。
霊力を使いまくってるのに、途中なにも口にしていない。
僕のお腹もさっきからグーグー鳴っている。
霊力を使うとカロリーを消費しまくるからね、これが続けば貧血みたいになってしまう。
「分かった、めっちゃ踏ん張るから大丈夫だよ。弥生さんは気にせず撃って」
「はいよ。じゃあ、行くぞッ!」
来る! と思ったその時だった。
倒れて唸ってたはずのヒョウさんが、ジャッキーさんの身体を操り、弥生さんを背中から羽交い絞めた後、身体を持ち上げ思いっきり地面に叩きつけた。
「弥生さん!」
女性相手に手加減もない暴力。
許されるはずがない蛮行だ。
背中と後頭部をしたたかに打った弥生さんは、声が出せないでいた。
息が苦しそうだ。
『俺の同胞達を滅するなよ』
聞き慣れた低音は悪霊達の味方をし、弥生さんを冷たく見降ろしている。
拘束された悪霊達は、自分達を助けてくれたヒョウさんに歓声を上げた。
その声は瞬時に大きくなった。
ヒョウさんにお礼を言う者、あからさまに持ち上げる者、様々な言葉が飛び交う。
だがやがて、
『鎖を解いてくれ!』
『自由にしてくれたらアンタに従う!』
『鎖を持つ男を殺してくれ!』
『それからこの女も!』
『殺せ! コロセ! ころせ!』
『殺れ! 殺れ! 殺れ!』
不気味な程の一体感を見せ、僕と弥生さんの命を奪えと叫び続けている。
マズイな……このままだと、僕も弥生さんも殺られる。
弥生さんは肺を強く打ったのか、まだ苦しそうに蹲っている。
僕は両手が塞がって、印を組む事も出来ない。
いっそ手放すか……そして高速で印を組んで霊矢を放つ。
それしか方法はない。
だけど、僕一人でこの人数を倒せるだろうか……?
いや、贔屓目に考えても無理だ。
だけど時間は稼げるかもしれない。
その間にどうにかしてジャッキーさんに表に出てきてもらって、ヒョウさんを押し出してもらう。
それを滅すれば、今よりも状況は良くなるはずだ。
出来ればまたマジョリカさんに呼びかけてもらいたい。
だけど……やっぱり駄目だ。
この場で防御陣から彼女を出すなんて絶対に出来ない。
僕がなんとかするしかない。
「ジャッキーさん! 聞こえますか!? 岡村です! お願いです、表に出てきて! 弥生さんが大変なんです! 地面に叩きつけられて呼吸が辛そうで、怪我をしてるかもしれない! 弥生さんを助けてください! 僕は今両手が使えないんです!」
僕の声なんかに反応するとは思えないけど、藁にもすがる思いで叫んだのだ。
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