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『すまなかった。自分、目が覚めたよ、男クン____とでも言えば喜ぶのかな? 残念だねぇ。今、志村は中で眠ってもらっているよ。さっきみたいに邪魔されたくないから、多少の事では起きないように細工をしたんだ』
クソッ……!
ジャッキーさんの真似をするなんて悪趣味だ。
ほんの一瞬期待してしまった。
てか“男クン”ってなんだよ、ジャッキーさんは僕を”エイミーさん”って呼ぶんだっての。
それにしても……今、ジャッキーさんは中で眠っているとヒョウさんは言った。
どうやったのか知らないけど厄介だな。
どうしよう……どうやって覚醒してもらおう……考えろ……考えるんだ。
『必死に打開策を考えてるといった顔だな。もう無理だ。諦めろ。おまえは両手が使えない。弥生はいまだ動けない。志村は呑気に睡眠中。なに、おまえは楽に逝かせてやるよ。死んだら俺の手下にしてやってもいい』
二ヤけた顔で僕を視る。
顔はジャッキーさんなのに、表情だけでまるで違う。
コイツ……嫌いだ。
「勝利を確信したかのようなビックマウスだ。もし、僕がここで殺されたとしても、オマエの手下には絶対にならないよ。だって僕は諦めない。先代みたいに死んでも霊媒師を続けてやる。そして必ずオマエを滅してやるからな」
『……ほう、言うじゃないか』
「気に入らないなら殴れよ。さっきみたいにさ。殴られたって絶対に屈しない。この赤い珠を守り抜く。これさえ守っていえば、必ず勝機がやってくる。僕は諦めない」
『……熱いねぇ、ご立派だよ。まるで映画の主人公だ。絶対的ピンチなのに心は決して折れない、敵にも屈しない、諦めない。そういう熱さは生者特有のモノなのかな? いやぁ眩しい……眩しすぎて虫唾が走る。……男、おまえは殴らないよ。殴っても心が折れそうにないからなぁ。だが、コレはどうだ?』
ヒョウさんは言ったが早いか、大股で弥生さんに近づいていく。
あ……ちょっと待って、僕を殴れよ、なんでそっちに行くんだよ、
「待てよ!」
腹の底から叫んだ。
だが歩が止まらない……やめろ……それ以上近づくな……!
「止まれぇぇぇぇっ!!」
華奢な背中が小さく上下に動いてる。
弥生さんはもう動けない。
ヒョウさんは足先で細い横腹を突く。
止めてくれ……僕を殴ればいいだろう。
なんで弥生さんなんだよ……!
『……この女、大丈夫か? 息が浅い。乱暴が過ぎたかな……まぁ、いい。弱ってようが生きてれば髪も心臓も霊力になる』
「待って、お願いだから待って。僕を殴れば良い、好きなだけやれば良い。弥生さんは怪我してるんだ。負傷の女性に暴力なんて絶対に駄目だ……おい、止めろ……いや、止めてください。お願いします。弥生さんに酷い事しないでください……!」
勝手に涙が溢れだす。
偽ジャッキーを滅した僕を、包むように癒してくれた弥生さんを、僕のせいで酷い目に遭わせてしまう、それが悔しくて、悔やまれて、なんて僕はバカなんだろう、あんな挑発するような事をいったばかりに……!
『なんだ、泣いてるのか? まぁ落ち着くといい。おまえは俺が弥生に暴力をふるうと思っている、違うか?』
……え?
違うの……?
『間抜けだな、「違うの?」って顔してるぞ。……確かに最初はそのつもりだったよ。生意気なおまえの目の前で弥生を殴りつければ、おまえ自身を殴るよりダメージがあるだろうってね。……だが、思った以上に弥生は弱っている。殴りつけて、もしも死んでしまったら、せっかくの髪と心臓が無駄になるから。だからその代わりに____』
弥生さんに暴力を振るわないといった。
その場しのぎでしかないけれど、それでも僕はホッとした。
だけど……その代わりに何をしようっていうんだよ。
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