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『弥生をいたぶるなら、こういう方法もあるんだよ』
ヒョウさんはそう言うと、ポケットから果物ナイフを取り出した。
あれは……さっき、ジャッキーさん家のキッチンで、ヒョウさんが首にあてがい僕らを脅した時もモノだ……クソッ!
持ち出していたんだ。
何をする気だ?
まさか弥生さんの髪を切るつもりか?
ヒョウさんはナイフのカバーを投げ捨てると、迷わず刃先を自分に向けて頬にあて、そしてスッと縦に引いた。
弥生さんは目を見開いて凝視した、ジャッキーさんの頬から流れる血液を。
『どうだ? 弥生も男と似たような事を思うのだろう? 自分が殴られた方がマシだと。だが殴らないよ。その代わりに弥生の大事な志村を切り刻む。それを視て絶望するがいい。今の弥生はまともに動けない。自慢の刀も振れないだろうからな、指でも咥えて眺めてろ。それから男、志村や弥生を助けたいなら、赤い珠を捨てて今すぐ俺を止めに来いよ、……どうした? 来ないのか? なんだ冷たいな。来ないのなら、続きだ』
コイツ……最悪だ。
人の嫌がる事を、悲しむ事を的確に突いてくる。
弥生さんは、動くのも辛そうなのに、何とか身体を起こそうとしている。
そしてヒョウさんは、そんな弥生さんの目の前、至近距離にしゃがみ込み、血の流れる頬を見せ付けて、さらに腕も切りつける。
「……やだ……やだぁ……やめてよぉ……」
かすかに聞き取れるかどうか。
そんな小さな声で、ヒョウさんに懇願する弥生さんは泣いていた。
どんなにマジョリカさんに責められても、マジョリカさんの声だけに反応したジャッキーさんを見ても、ジャッキーさんが自分を好きになったのは錯覚だと言い切った時も、マジョリカさんとちゃんと話せと説教した時も、どんな時でも泣かなかった弥生さんが泣いている。
「……おねがいだから……やめて……アタシを切ってよぉ……」
ああ……僕は何も出来ないのか、あんなに弥生さんが泣いているのに。
もうフォーマンセルのリーダーでも、強い姐御でもなくなってしまった。
『……たまらないな、弥生のような強い女が無力になって、悲しみに泣いている……何も出来ない自分に絶望している……もっと……もっと悲しめ、絶望しろ、その負の感情が霊力を更に高めるんだ……さぁ、もっと志村を刻んでやるからな……ちゃんと視るんだ……ほら……泣け……もっと泣けよ……』
掠れた声のヒョウさんは、恍惚状態でジャッキーさんの身体を切り刻む。
今度は太ももだ、カンフースーツの上から刃を食い込ませ、スゥっと縦に滑らせていく、布ごと皮膚が切れていく。
視ていられない……だが一つだけ、救いがあった。
ヒョウさんは、精神的に弥生さんを追い詰める気でジャッキーさんを刻んでる。
だけど決して深くは切っていないんだ。
これはジャッキーさんの身体を使って、弥生さんの髪と心臓を手に入れる為だ。
致命傷を与えて、生者の身体を壊してしまってはそれが叶わなくなる。
とはいえ……血の出やすい箇所をワザと切ってるのだろう。
流血したジャッキーさんを見て、弥生さんはどんどん追い詰められている。
「血がでてる……いたいよ……もうやめてよ……うっ……うっ……やだぁ……ほんとにやめてよ……うっ……」
弥生さんは泣きながら、痛む身体に鞭打ってなんとか上半身を起こした。
止まらない涙を拭う事もせず、血の出る傷口を見せ付けられて、またさらに泣きながら、ジャッキーさんを傷付けないでくれと切願してる。
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