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大きな背中を丸め、弥生さんと目線を合わせるジャッキーさんが言った。
「いいか、弥生。これから中の悪霊を表に出すが、もしまた途中で悪霊が自分と入れ替わってしまっても、パーテーションの事など気にせず引き剥がすんだ」
痛む身体を気力で立たせ、ふらつく弥生さんは、ジャッキーさんの話に数瞬考え込んだ。
「……なに言ってんだよ、誠の話ちゃんと聞いたのか? そんな事したらアンタの魂を削ってしまう。死にはしないけど、魂の再構築はジャッキーの人格を変えてしまうかもしれないんだ。下手すりゃ……アタシやマジョリカの記憶も削られるかもしれない」
目を真っ赤にして拒絶する弥生さん。
ジャッキーさんは、それでも繰り返しこう言った。
「自分は大丈夫だよ。それより今は、悪霊達を滅さないと。おまえやマジョリカを無事に帰してやりたいんだ。だから躊躇するな。でないとまた新たな悪霊を呼び寄せてしまう」
「……やだよ……絶対やだ。だってマジョリカと約束したんだ。必ずジャッキーを連れて帰るって。マジョリカが待ってるのは今のアンタだ。再構築で人格が変わったらマジョリカの知ってるジャッキーじゃなくなっちゃう。それにアタシも……ヤダ」
目から涙をボタボタ垂らし、弥生さんは華奢な手をジャッキーさんに伸ばしかけた……が、それを途中で力なく降ろす。
きっと触れたかったのだろう、”そんなコト言うな”って抱きつきたかったのだろう、けれど弥生さんはそれを諦めた。
「ほら泣くな。まったく……おまえはいつまでたっても泣き虫だ。ついでに言えばちっとも強くないしメンドクサイ女だから心配だよ……なぁ、弥生……ごめんな、おまえと一緒にいられなくて、一人にしてごめんな、」
ジャッキーさんもだ。
この人も弥生さんに手を伸ばしかけ、やはり途中で諦めた。
二人共触れ合いたいと思ってるのだろう……だけど。
「なに言ってんだよ。アタシは大丈夫だ。アンタはマジョリカとちゃんと話して仲直りして、」
声が震えてる。
一生懸命笑おうとしてるけど、涙が邪魔してそれが難しい。
ジャッキーさんは、そんな弥生さんから目を逸らし、沈んだ表情を浮かべ静かにこう言った。
「弥生……自分は……いや、いい。時間が無い。いつ悪霊が出てくるかわからない。先に滅するぞ。弥生、先に何か武器を用意して……弥生!?」
叫ぶように名を呼んだジャッキーさんは、地面に膝をついた。
そしてその場に倒れ「ごめん、ダイジョウブだ」と繰り返す、弥生さんを抱きかかえた。
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