第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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~~防御陣の外へ・マジョリカ視点~~ 大倉弥生が造ってくれた結界は、防御陣を五重にしたものだ。 黄泉の国の移動の陣とは、また構築式が違う。 大倉のはもっと複雑で、しかも重なっているから外の様子が分かりにくい、だけど外の音はよく聞こえる。 ウチは耳を澄ませながら陣の内側から視続けていたんだ。 途中、大倉はジャッキの顔をした悪霊に地面に叩きつけられた。 ウチは思わず悲鳴を上げた。 あんな事、生者の、しかも女の人がされたら死んでしまう。 今はまだ大倉に光る道なんて伸ばしたくない、どうか生きていてと祈ってた。 大倉はなんとか意識はあるみたいだったけど、蹲って動けないでいた。 地面の上に背中を丸めて……視ていて涙が止まらなかった。 ウチはなんでこんなに無力なんだろう。 あの子はウチより二つ年下だ。 年だけ見れば妹だ。 なのに大倉ばかり危険な目に合せて、ウチ一人が安全な場所に隠れてる。 ジャッキが好きになってしまった生者。 最初は嫌いで憎たらしくて、心のどこかで、いなくなればいいのにと思ってた。 だけど今はそう思わない。 そんな事を思ったウチは、自分が恥ずかしいとさえ思う。 だって、大倉は? 大倉だって、ウチがいなければジャッキと一緒になれるのに。 大倉くらい強ければ、ウチを滅するのなんか簡単なのに。 あの子はそうしない。 それどころか、あんなになっても守ってくれる。 ヤヨイの結界が消えた時、あのまま忘れた振りをしてれば、もしかしたらウチは、他の悪霊に消されてしたかもしれないのに……だけど走ってやって来た。 ____ジャッキーが得意な防御陣だ、同じの展開するからな、 ____念のため重ねるか……ヨシ、五重にしよう! ____戦ってる最中も視てるよ、何かあったら飛んでくる、 ____もし、もしも、この陣突破されて危険になったら、 ____大声でアタシを呼んで、 ____絶対に守るから、死んでもマジョリカを守るから、 傷だらけの泥だらけ。 ヤヨイとお揃いの黒いワンピースは所々切れてるし。 なのに真剣な顔でさ、あんな事言われたらさ。 ああ、もう気持ちがグチャグチャだ。 黄泉の国にいたら、絶対こんな気持ちにはならないのに。 現世は困難ばかりで怖い所、ジャッキがいて大倉がいる所。 現世にいると心が乱れる、すごく考えさせられる。 ウチには霊力(ちから)もなければ、腕力(ちから)もない。 大倉みたいに戦えないし、岡村みたいに鎖も出せない、ヤヨイの結界も造れない。 ただただ守られるだけ……でも仕方ないじゃない。 ウチはただの死者だもの、弱いんだもの。 霊媒師はその道のプロだ、比べたって仕方がない。 何も出来ないよ____ 本当? 本当に何も出来ないの? 本当に守られるだけでいいの? …… ………… ………………さっき大倉は、 操られたジャッキが、ジャッキの胸を切ろうとした時。 身体が痛くて動けないのに、戦えないのに、それでも諦めないで、素手でナイフを掴もうとしたよ。 泣きながら、ジャッキを助ける為に、生者だから傷は痛むし治りも遅い。 なのにあの子はそうしようとした。 だから、ジャッキは戻ってきたんだ。 大倉を助ける為に。
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