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身体を取り戻したジャッキが、ボロボロな大倉弥生を背負ってウチの所までやってきた。
陣の構築式が邪魔でよく視えないけど、ジャッキはひどく辛そうな顔をしていて、背負われた大倉は両手も両足もダラリと下げたまま、ジャッキが歩くたび前後にブラブラさせていた。
陣の前。
そこで止まったジャッキは、後ろを向いて大倉に何か話してた。
大倉は頷いて、力なく拳を握ると小さく口を動かして……ん?
どうしたんだろう?
急にジャッキの顔が真っ赤になった。
ほんの数秒後。
大倉の拳から紫色の強い光が放射線に伸びたのと同時、ウチを守っていた防御陣が消えた。
『ジャッキ、身体を取り返したんだね……良かった……安心したよ。大倉は……ああ、もう無理だよ、もう戦っちゃダメだよ、可哀想に痛いだろ……? 現世にもオートリカバーがあれば良いのに、……大倉、大丈夫か? ウチの声が聞こえるか?』
ジャッキは大倉をそっと背中から降ろし腕の中に抱きかえた。
ボロボロの大倉はウチを視て、目をまっかにして「ごめんね」って言ったんだ。
『なにがごめんなの? ウチがごめんだよ、ウチ一人で安全な所に隠れて、みんなに守ってもらってさ。大倉……こんなにボロボロにさせてごめんね、本当にごめんね』
泣いちゃダメだって思うのに、涙がとまらなかった。
大倉弥生があまりにも弱ってて、あまりにも小さく視えて、それに……この子が言った「ごめんね」の意味が分かってしまって、きっとジャッキに抱かれてる事に対して謝ってるんだ。
ウチに気を遣ってるんだ。
こんな時に、そんな事考えなくていいのに。
大倉はウチを視上げてこう言った。
「マジョリカ、悪いけど今すぐジャッキーの家に戻ってほしい。家なら結界があるから安全だ。今のアタシはこのザマでマジョリカを守る事が出来ない。エイミーちゃんも今は動けない。ジャッキーは先に中の悪霊を剥がさないといけない。このままマジョリカがここに残るのは危険なんだ。アンタに何かあったらアタシは死んでも死にきれない。だからお願い、アタシとジャッキーで送るから、」
なんで?
なんでそこまで守ろうとしてくれるの?
こんなにボロボロなのに。
ウチに何か出来る事はないのかな?
このままジャッキのオウチに戻って大人しくしてるのが良いのかな?
無理して残ったら、かえって負担をかけるのかな?
バラカス、白雪ちゃん、ウチはどうしたらいいのかな……?
ウチに出来る事、
『ウチ……ん、その前に教えて。大倉は負傷で戦えない。岡村は条件付き、あの手に持ってる赤い珠、あれを手放すと悪霊達を縛る鎖が消える。先に悪霊達を何とかしないと動けない。ジャッキはまだ悪霊が中にいる。バラカスのサーバーにアクセスさえすれば即戦力になる、ここまでは合ってる?』
ジャッキと大倉の顔を視る、どっちが答えてくれてもいい。
今の状況を確認したい。
「ああ、合ってるよ。どうしたんだ、マジョ。気になるなら家に戻りながら聞くよ?」
ジャッキが答えてくれた。
良かった、結界の中で聞いていた言葉を繋げば大体合ってる。
『ん、ありがと。でももう少し教えて。ジャッキと大倉でウチを家まで送るって言うけど、今、歩行に問題のないジャッキだけで送らないのは、もしも中の悪霊が表に出たらウチが危険だからでしょう? 負傷の大倉を同行させるのはリスクに対する保険。公園から家まで早歩きで、往復約30分。その間、動けない岡村一人を残すリスクに対して何か策があるの?」
今度は大倉が答えてくれた。
「対策は特に何も考えてない。エイミーちゃん一人の時に何かあったら、悪いけど気合で乗り切ってもらうしかない。マジョリカの安全確保が最優先だ。アタシとコイツの二人で送る理由はマジョリカの言った通りだよ。今のアタシはポンコツだけど、いないよりマシだ」
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