第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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~~マジョリカの作戦・弥生視点~~ AM5:06 だいぶ空が明るくなってきた。 マジョリカの作戦が上手くいけば、もうあと少しで全てが終わる。 そうなれば、今度こそ二度とジャッキーに逢えなくなるんだ。 いや……考えるのはよそう。 本当なら今日だって逢えないはずだった。 だけど逢えたんだ。 最高のサプライズだよ。 あとは、ジャッキーとマジョリカが仲直りしてくれたら他に言う事はない。 作戦の内容をエイミーちゃんに伝えてるのはジャッキーだ。 拘束中の悪霊達に聞かれないように、野郎が野郎の耳に内緒話で伝えてる。 ま、説明はアタシよりジャッキーの方が上手だからね、適材だ。 ジャッキーを待っている間、ソワソワ空を見上げるマジョリカに声を掛けた。 「なぁマジョリカ……色々ごめんな。ジャッキーの事もそうだし、怖い思いも沢山させちゃった。せっかく現世に来たのに散々だったよな。全部終わったらアタシとエイミーちゃんは帰るから、ジャッキーと話し合ってよ」 『ん、』と振り向くマジョリカはめちゃくちゃ綺麗で、髪ボサボサで泥だらけのアタシは、なんだか自分が恥ずかしくなってしまった。 この子には何から何まで勝てる気がしない。 「さっきも言ったけど……アイツがアタシを好きだと言ったのは、マジョリカに逢えない辛さから錯覚したんだ。本当に好きなのはマジョリカだけ、だから心配しないで。アタシももう吹っ切れたしさ。……それと、しばらく現世にいたらどう? 現世(こっち)でジャッキーといっぱい話して甘えればいいよ。帰る時に連絡してくれれば、ヤヨちゃんに行ってもらうからさ、」 泣くな、泣くなアタシ。 泣いたらマジョリカが気にしちゃう。 この子は優しい子だもの。 もっと怒ってアタシを責めたっていいのに、そうしない。 ジャッキーにちょっかい出したジャマな女だっていうのに、アタシの怪我を心配して泣いてくれたんだ。 『ん、アリガト。ジャッキがいいって言ったらそうしたいな。帰りたくなったら連絡する、その時はよろしくね。……ウチ、ジャッキと話したい。気持ちをぶつけ合いたい。今までジャッキの話を聞けてなかったなって反省したんだ。これからはジャッキの話いっぱい聞きたいよ。特別な事じゃなくても良いから、その日あった事、嬉しかった事、それから嫌だった事も』 「うん、それがいい」 『あと……大倉、まだ帰らないでよ』 「え……? なんで? アタシがいたらジャマだろ? いいよ、帰るよ」 『ううん。ウチがジャッキと二人で話した後、三人でも話したいの。そうじゃないと何も解決しない気がする。ウチ……視ててわかったんだ。大倉は錯覚だと言ったけど、ジャッキは……やっぱり大倉が好きだよ。それは”浮気”とか”悪さ”とか、そういうレベルじゃない、ウチを嫌いになったんでもない。ウチと大倉、二人を本気で好きになっちゃったんだ、』 少し淋しそうに、それでもアタシを責める口調ではなくそう言った。 マジョリカの言う通りだ……本当はアタシも知っている。 アイツは二人の女を同時に愛してしまった。 そして、”もう誰にも嘘はつきたくない”と、どちらかを選ぶんじゃなく、どちらも諦めたんだ。 ホントバカかよ……もっと上手くやれよ。 って……上手く立ち回れないんだよなぁ、あの男は。 だからアタシが消えるの。 今なら、きっとそれでうまくいく。 悪霊騒ぎでバタバタしてるし、なにより現世に来てくれたマジョリカと八年ぶりに逢えたんだ。 アイツはこの子の顔を視て、声を聴いて、変わらない優しさに、愛情は今まで以上に溢れだすに決まってる。 あとは愛した女の片方が……そう、アタシが完全にいなくなれば、アイツは迷わなくて済むはずだもの。 アタシが黙っているとマジョリカは、 『……ジャッキだけを責めるのも、大倉だけを悪者にするのも簡単だ。でも、それじゃあ解決しない。だからってどうするのが正解か分からないけど……それを見つける為にも三人で話したいの』 そう言われてアタシはなんて答えていいのかわからなかった。 三人で話したって結果は変わらない。 アタシの願いはジャッキーとマジョリカに仲直りをしてもらいたい、それだけだ。 それでも……アタシの存在が、ジャッキーを想い続けた七年の恋が、マジョリカを苦しめた事に変わりはない。 マジョリカが望むなら、三人で話したいというのなら、アタシがそれを拒んじゃいけないんだ。 これが本当に最後だ。 「わかった、残るよ。三人で話をしよう」 マジョリカはそう答えたアタシに『アリガト』とだけ言い、再び空を視上げた。
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