第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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悪霊共が拘束された巨大な塊は宙に浮かび、縛る鎖の大元はエイミーちゃんの手の中にある。 【闇の道】を視た悪霊共は、なんとかして逃げようと、霊体(からだ)を捩り、隣の悪霊、互いを蹴り合い踏み台に、外側に飛び、鎖を切ろうと試みる……が、エイミーちゃんの赤い鎖は決して切れる事はなく、支える手のひらがブレる事すらなかった。 「エイミーちゃん、大丈夫? けっこう長いコト同じ体勢だし、悪霊共も暴れてる。身体、キツクない?」 霊矢をあれだけ撃って、今は悪霊百体強を拘束中だ。 相当霊力(ちから)を使ってるはずなんだけど…… 「ありがとう、大丈夫だよ。同じ体勢が長すぎて肩が凝るけど、霊力(ちから)的には問題ない。最初に増幅の印を結んどいたからね、余裕!」 肩が凝るって……それだけかよ。 この子、どんだけ霊力(ちから)持ってんだ。 なるほどね、先代や誠が目の色変えるのも頷けるわ。 ま、とりあえずこれなら大丈夫そうだ。 ごめんね、あと少しだけ頑張ってね。 エイミーちゃんが”余裕!”と答えたすぐ後、とうとう悪霊達のすぐそばまで伸び切った【闇の道】は、ブクブクと泡だって、一番手前にいる者達の霊体(からだ)をチリチリと焼き、重なる悲鳴が耳にうるさかった。 マジョリカは宇宙色の髪をなびかせて、一歩二歩と前へと進み、エイミーちゃんの横に立った。 そして【闇の道】と悪霊共を見上げたままこう言った。 『……岡村、大変だったよね。ずっと縛ってくれて、逃さずにいてくれてありがとう。あとは【闇の道】にまかせよう。ウチがいいよって言ったら鎖を解いてくれる? ん、大丈夫。解放した途端逃げ出しても、道は一体も逃さない。道から大量の靄が出てるのが分かる? その靄は悪霊全員に付着済だ。どんなに逃げても隠れても、道は付着した靄を、靄の着いた悪霊をどこまでも追跡する。もう、何をしても逃げられない』 「うん、」なんて頷いたエイミーちゃんの隣で、今度はジャッキーに振り向いた。 『これから【闇の道】を稼働させる。岡村が拘束中の悪霊達が流れ始めた後なら、いつ中の(・・)悪霊を表に出しても構わないよ。ジャッキの中から出るのと同時に道が引っ張ってくれるから』 「分かった。印を結んで表に出すまで、おそらく数分だ。タイミングを視て作業を始めるよ」 そう答えたジャッキーに頷いたマジョリカは、片手をスッと天に伸ばし、もう片手で星のペンダントを口元にあてがった。 『白雪ちゃん、お待たせ。こっちの用意は出来たよ。……うん、そうだよね、【闇の道】、伸ばした現場側から視るのは初めて……大丈夫、怖くない。ウチ、現世の霊媒師が働いてる所も今日初めて視たんだ。想像より何倍も危険で大変だった……ううん、平気だよ。だってみんなウチを守ってくれたの……うん、ウチも頑張りたいんだ、少しでいいから役に立ちたい……だから、』 マジョリカは、一旦話すのをやめて大きく息を吸った。 緊張しているのか肩が微かに震えてる。 それでも背を伸ばし、通る声でこう宣言した。 『現世、ここに拘束されるすべての悪霊達へ告ぐ! あなた方は今を生きる者達へ害を成し、罪なき生者の命も狙い脅かす! 今夜それを確認し、黄泉の国【光道(こうどう)開通部】所属マジョリカ・ビアンコは、地獄流しが適切だと判断した! 今から全員……地獄へ流します!』 力強く言い終えて数秒後。 ゴボゴボと煮えたぎるような音が、【闇の道】全体から響き渡る。 続けてマジョリカの、 『岡村! 鎖の解放を!』 この一言でエイミーちゃんは、赤い電塊を地に落とした。 途端、鎖は消えて飛散して、一秒の半分ほどの長さだけ悪霊共が自由になった……が、断末の悲鳴と共に、次々【闇の道】に霊体(からだ)が引っ張られ、ジュッ! ジュッ! と焼けるような音が重なった。
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