第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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地獄へ流す為の道なのに、すでにそこが地獄であるかのようだった。 アタシの目に、全身黒タイツ野郎に視える悪霊共は、引けた腰で逃げまどい、悲鳴を上げて、許してくれと懇願し、その身は焼かれ溶かされ剥がされて……さすがに視るのがキツイ。 いくら悪霊とはいえ辛くなってくる。 死者と生者の見分けがつかないエイミーちゃんは、アタシの数倍辛いらしく、口を押えて茂みへと駆け込んだ。 かわいそうに、きっと今頃リバースしてる。 そんな中、ジャッキーはというと中の(・・)悪霊を追い出す為、ゴツイ手指を器用に絡め印を結び始めていた。 アタシの身体はいまだ全身痛むけど、ジャッキーの中から完全に悪霊がいなくなるのを見届けない事には安心出来ない。 最後まで油断しない、もしも剥がす寸前、ジャッキーの身体を乗っ取る気配があれば、なんとしてでも阻止をする。 絶対にアタシが助ける、だってこれが最後だもの。 複雑に絡む指の動きが止まった。 ジャッキーは目を閉じて、口の中で言霊を唱えている。 小さな声で聞き取る事は出来ないが、やがて大きな身体が光に包まれた。 コイツの霊力発動時、固定カラーは深い緑色だ。 だけど今回、光る道の欠片の力を使っているせいなのだろう。 いつもとは少し違う、黄緑色だった……と思った直後。 『ガァァァァァァァァァァァァァ!!』 光に包まれたジャッキーが苦痛に顔を歪め絶叫した。 だけどこれはジャッキーの叫びじゃない、中の(・・)悪霊だ。 悪霊の抵抗が始まった。 身体を揺らし、捻り、【闇の道】とは反対方向に走ろうとしているみたいだけど、ジャッキーの義足は頑なにその場から動かなかった。 ガツッ! ガツッ! 叫び声と共にジャッキーの右の拳が、垂れ気味の右目横に思いっきり入った。 マジョリカが短い悲鳴を上げる。 アタシは黙ってそれを見ていた。 アイツの中の悪霊が最後の悪足搔きをしてるけど、ジャッキーは耐えている。 ギリギリまで手は出さない。 『志村ぁぁぁぁぁぁ!! 俺を出すなぁぁぁぁぁ!! 道ぃぃぃ!! 道が来てるだろぉぉぉぉ!! 嫌だぁぁぁぁ!! 俺はぁぁぁ!! 地獄は嫌だぁぁぁぁ!! 助けて、助けて、助けて助けて助けて助ッ!!』 ジャッキーの声帯を使った最後の叫びが途中で切れた。 グッと仰け反った大きな身体、開いた口から、全身黒タイツ野郎の頭の部分が飛び出した。 マジョリカは口元を押さえ顔を背けた。 けど、すぐに前を向き、飛び出した頭に『ジャッキから離れて!』と涙声で叫ぶ。 その声に反応したのか、それともオートなのか。 確かめる事は出来ないけど、【闇の道】から無数の触手が光の速さで伸びてきて、飛び出た頭にズブズブと入り込んだ。 『ガッハァァァァァァァァッ!! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いぃぃぃ!! 助けて!誰か!痛い!助けて!母さ、』 ちょうどその時、エイミーちゃんが戻ってきて、あの子の目には生者に視える悪霊が、ジャッキーの口の中から頭だけを飛び出させ、さらには脳天に無数の触手を生やしているのを視て、その場に盛大にリバースしてしまった。 「大丈夫!?」心配で大声を上げた。 エイミーちゃんは真っ青な顔をして「ゴメン、大丈夫だから」とグッタリしてる。 ヤバイな……これ以上、この子に無理はさせられない。
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