第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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エイミーちゃんから目線を戻し、再びジャッキーを見ると、憑いてた悪霊は腰のあたりまで引きずり出されていた。 あと少し、もう少しで、悪霊が抜ける。 ジャッキー、頑張ってくれ……! ズボッと本当にそんな音がして、ジャッキーの中から完全に悪霊が抜けた。 頭に無数の触手が刺さり、【闇の道】に向かって引っ張られる黒タイツ野郎は大きな悲鳴を上げていた。 『ガァァァァァァァァッ!!』 耳をふさぎたくなる叫び声がアタシの真横を通過する。 同情なんてしない、だけど気分はやっぱり悪い。 みんなアンタに振り回された。 危害を加えられたんだ。 隣には膝に手をやり背中を丸め、肩で息をするジャッキー。 斜め前には、青い顔で涙目のエイミーちゃん。 そしてアタシの数メートル先には、口を真一文字に結んだマジョリカ。 エイミーちゃんに拘束されていた悪霊達は、先に道を歩かされてる。 霊体(からだ)の至る所を焼きながら、だいぶ先まで進んでる。 『あとぉぉぉ、少しだったのにぃぃぃぃ!!』 叫ぶ声。 闇の触手は無数ガッチリと悪霊の頭に突き刺さり、時に引きずり、時に浮かせて、バウンドを繰り返しながら【闇の道】へと(いざな)う。 そのスピードは大して速くはない……が、その方がかえって恐怖心は煽られるんじゃないだろうか。 喚く悪霊がマジョリカの横にさしかかった。 それは一瞬だった。 二人の死者がすれ違う一コマ。 時間にすれば一秒もない中で、悪霊はマジョリカの腰を引っ掴んだ。 細い身体が宙に浮かぶ。 悪霊は触手に捕らえられ、マジョリカはその悪霊に捕らえられた。 『女ぁぁぁっ!! 来いぃぃぃっ!! せめて女を道連れにしてやるぅぅぅ!! お前を道に敷いて(・・・)やるぅぅぅ!! お前を俺の靴代わりにしてやるぅぅぅ!!」 『きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!! ヤダ!! 離して!! ジャッキ!! ジャッキ助けて!! ジャッキ!! ジャッキ!! ジャッキ!! 助けて!! 大倉ぁっ!!』 マジョリカの悲痛な叫び声が響き渡る。 アタシとジャッキー、走り出したのは二人同時だった。 この時のアタシ達はアドレナリン全開で、身体の痛みも何もかも忘れていた。 途中地面に光るモノが目に入り、走りながら蹴り上げて空中でキャッチした。 あのクソ悪霊!! 自分の罪は自分だけで償えよっ!! マジョリカを巻き込むなっ!! マズイ! ヤバイ! 走れ! マジョリカが連れて逝かれる、罪のないマジョリカが、悪霊の道連れにされてしまう、マグマの道に焼かれてしまう、そんな事は絶対させないからっ!! 触手は二人の死者を離さないまま、【闇の道】との距離を削っていく。 マジョリカが道に投げられる前に、なんとしてでも奪還しなくてはならない。 アタシとジャッキーは走りに走って、あと少しでマジョリカに届く距離まで追いついた。 なのに、クソッ!! 触手が急に高度を上げた!! 地面から【闇の道】まで、地上高、目測十メートルを欠くくらい、 そこに向かって正確な軌道を辿る触手は、どんどんアタシ達から遠ざかる、 ふざけんな、クソッタレ!! 諦めるもんか!! 「ジャッキー! アタシを投げろ!」 隣を走るジャッキーは余計な事は一切言わず、叫んだアタシを走りながら掴み抱く。 こういう時「危険だよ」とかグダグダ抜かさない所が大好きだ。 アタシの雑な説明を瞬時に理解する所もサイコーにやりやすい。 話すまでもない、これしか手はない、二人の意見は一致してる。 アタシ達は似てるんだ、思考も感覚も、好きな食べ物も、好きな飲み物も、何もかもがそっくりだ。 アタシはアンタでアンタはアタシ。 ジャッキー、大好き、愛してる、これから死ぬまで一生好き、ううん、死んでも好きなの、この身が消滅するまで”好き”の気持ちは変わらない、報われなくても、独りになっても、アンタ以外は愛せない、だから絶対マジョリカを助ける、アンタの大事な奥さんだもの!
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