第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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ジャッキーの走る速度が上がった。 アタシを抱えて助走をつけて。 数メートル先の斜め上、捕らえられたマジョリカに向かって、思いっきりアタシの身体をぶん投げた。 同時、使うチャンスを逃した構築済みのパンツァーファウストを出現させて、地面に向かって撃ち込めば、その衝撃はアタシの身体を更に高く運んでくれた。 『大倉ぁっ!』 拘束されたマジョリカは、暴れまくって霊体(からだ)を下げて、アタシに向かって手を伸ばす。 下を見れば意外と高い、だけど怯んでなんかいられない。 【闇の道】まで刻々と距離が縮まってるんだもの。 アタシの霊力(ちから)じゃ死者に触れる事は叶わない。 だから構築した。 霊力(ちから)でもって出現させた紫色の霊鎖、これを手にグルグルと何重にも巻き付けた。 直接は無理でも、霊鎖を介すれば触れられる。 女二人で手を伸ばし合った……けど、あと数センチが届かない! ああ、クソッ! 手を掴めないまま、重力がアタシを地面に引き戻す、アタシの身体が降下する、マジョリカとの距離が広がっていく、それを視ていた黒タイツ野郎は口を三日月に嘲笑ってて____ この下衆がっ! 今のうちに笑ってろ! 絶対に諦めない! アタシはしつこい性格なんだ! 『大倉ぁっ!』 マジョリカも諦めてない、泣いてはいるけど黒くない、きっとアタシを信じてる、こんなアタシを、邪魔なアタシを……応えるからね、絶対に! ブンッ! 背中を下に落ちながら、手に巻き付けていた霊鎖を飛ばした。 イメージ大事、頭の中にはカウボーイが浮かんでる。 長い鎖に霊力(ちから)を流して操って、マジョリカの細い腰にこれでもかと巻き付けた。 ガクンッ! 身体の降下が止まった。 マジョリカに絡む霊鎖がアタシを吊るす。 アタシの身体の重さの分だけ、闇の触手が引き下げられて【闇の道】から少しだけだが距離が稼げた。 「痛かったら悪い、」とブラブラしながら、上を視上げて手を振った。 『ダイジョウブだよ、でもお願い! 早く来て!』答えるマジョリカは苦しそうだ。 モタモタしてなどいられない。 アタシは野生の猿顔負けの速さでもって鎖を登り、黒タイツ野郎にメンチを切った。 「マジョリカを離して、地獄逝きはアンタだけだよ」 『邪魔するなよぉぉぉ! 俺はタダで地獄にはいかないからなぁぁぁ! 道を呼んだこの女を許さないぃぃぃ! 一緒に連れて行くぅぅぅ! 邪魔するなら弥生も道連れだぁぁぁ!!』 恰好悪い、往生際が悪い奴は嫌いだよ。 自棄になった悪霊は、両手でマジョリカを抱きかかえ、絶対に離さないと意思表示をする……マズイな。 今から霊刀を構築するには時間がない。 それにマジョリカも斬ってしまうかもで使えない。 早くはないけど、触手は【闇に道】へ着々と距離を詰め続けるし。 『……! そうだ! 髪! 弥生の髪を寄越せ! 心臓は無理でも髪くらいなら、今ここで吞む事が出来る、弥生の髪を呑み込んで、霊力(ちから)をつければ逃げられるかもしれないっ!』 抱えてるマジョリカの髪ではなく、アタシの髪を欲しがるのは、この状況から逃げたくてたまらないといった所だろう……ま、当然か。 そうか、そうだよな、……ん、分かった。 「髪が欲しいか?」 『欲しいっ! 寄越せ! 今すぐだ! 俺は地獄に逝きたくないんだ!』 全身黒タイツだからアタシの目には表情は映らない。 けど、耳まで裂けた口の端が泡だっているのがキモチワルイ。 どんだけ必死だよ。 餌、見つけた。 「そんなに欲しいのか。オマエごときがアタシの霊力(ちから)を扱えるとは思えないけど、試してみるか?」 アタシの言ったセリフにマジョリカの眉間にシワが寄る、訝し気にアタシを視てる。 手に持つ霊鎖をアタシの腰に巻き付け直せば両手が空く。 今、女二人は霊鎖で完全に繋がった。 これで助かっても助からなくても、この後の運命はお揃いだ。 黒いワンピースのポッケの中から、さっき拾った光るモノを取り出した。 元はジャッキーん()のキッチンにあったんだ。 悪霊が持ち出して、ジャッキーの手に渡り、今はアタシが手にしてる。
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