第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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◆  ジャッキのオウチに着いて、泥だらけの生者三人は順番にシャワーを浴びた。 その後、疲れも眠さも限界を迎えた大倉と岡村は、気を失うように眠ってしまった。 大倉は一階の客間、岡村はリビングのソファでだ。 ウチはそっと客間に入り込み、大倉の寝顔を眺めていた。 シャワーを浴びて、ジャッキの大きなシャツを着て、身体を丸めて眠っている。 視れば、腕に、頬に、首に、小さな切り傷がたくさんあって、布団からはみ出た脚も、やっぱり傷だらけの痣だらけだった。 それと……髪。 綺麗で長かった黒髪は、毛先もまばらでザクザクで、うんと短くなってしまった。 大倉はウチを守る為、ウチを助ける為に、迷いもしないで髪を切った。 ごめんね……大倉の大事な髪、ウチのせいでごめんね。 大倉が来てくれなかったら、ウチは地獄に流されていた。 【闇の道】はね、一度上がってしまえば悪霊はもちろん、それが善霊であっても決して逃がしてはくれない。 ウチが焼かれる事なく、今こうしてジャッキのオウチにいられるのは、大倉が助けてくれたからだ。 ねぇ、どうして? 身体はボロボロなのに、大倉だって危険なのに。 どうしてそこまでするの? どうしてそこまで出来るの? ウチは大倉の事____ 「マジョ、」 静かにドアを開けたジャッキがウチを呼びにきた。 『寝なくていいの?』って聞いたけど「大丈夫だよ」と答えるジャッキに連れられ二階の部屋に行ったんだ。 中に入ると、そこはジャッキの趣味のモノで溢れかえっていた。 たくさんの小説と漫画とDVD、それから色んなキャラのフィギュアもあって、中にはジャッキの大好きなジャッキー・〇ェンフィギュアもあった。 部屋の中にあるモノの半分以上、知らないタイトルばかりだったけど、みんなジャッキの好きなモノなんだと思ったら、そのすべてが特別で愛しいモノに感じられた。 ジャッキはこういうのが好きなんだな、ウチ、初めて知ったよ。 嬉しいなぁ、ジャッキのコト、もっともっと知りたいよ。 「自分の部屋にマジョがいるなんて、まるで夢みたいだ」 ジャッキはそう言って、すごく優しい顔で笑ってくれた。 二人向かい合って立ったまま、触れ合う事は出来ないけど、お互いの手のひらを重ね見つめ合った。 あれから八年が経ったんだ……ジャッキ、少し老けたな。 目尻のシワが増えてる。 そうだよね、出逢ったのはちょうどジャッキの誕生日で40才になったばっかりだったんだ。 今は48才、老けて当たり前だ。 生者は年を取るんだもの。 なのに……ウチは……ずっと17才のままだ。 ウチも生者だったらなぁ、そうすればジャッキと一緒に年が取れるのに。 同じようにシワが増えて、「マジョも老けたなぁ」なんて言われてさ、「お互いさまでしょう」って笑うんだ。
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