第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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『ジャッキ……もっとよく顔を視せて』 ウチよりもずっと背の高いジャッキ。 今は身長差すらももどかしい。 もっと近くがいいよ。 もっと……もっと近くで顔が視たいの。 ジャッキは「ここに座って」とフカフカなラグの上を指さして、ウチが座ると、すぐ隣の近い距離に座ってくれた。 ん……さっきよりも、ずっと近くになったよ。 嬉しいなぁ……泣いちゃいそう。 隣に座るジャッキの横顔。 耳には白雪ちゃんがくれたお揃いの赤いピアス。 ずっとつけてくれてるんだね。 ウチのコト、好きでいてくれてるんだね。 だけど、大倉のコトも好きなんだ。 切なくて胸が苦しくなるよ。 八年前、二人が恋に落ちたあの日、何度も何度もキスをした。 キスをするたび、愛しさと幸せでいっぱいになったの。 ねぇ、ジャッキ。 ここが黄泉の国なら良かったと思わない? そしたらキスが出来るのに、抱き締めてもらうコトも出来るのに。 沈黙が続く。 なにから話せばいいんだろう? まずは…… 白雪ちゃんから聞いたあのコト(・・・・)かな? ん……これは慎重に話したい。 じゃあやっぱり、大倉のコトかな? そうでなければ、ジャッキが今なにを考えているのか、かな? ほかにもいっぱいあるよ。 いっぱいありすぎて頭の中が渋滞してる。 うまくコトバが出てこない。 もしかして……黙ったままのジャッキも同じなのかな? ジャッキの頭の中も、ウチと同じで渋滞してるのかな? まだ何から話していいのか分からないのに、決まってないのに、なのにウチは『ジャッキ、』と名前を呼んでいた。 ああ……いつものクセがでちゃったな。 ウチはジャッキのいない黄泉で、いつだって無意識に名前を呟いてたの。 ワザとそうしてるんじゃないのに、大好きで逢いたくて淋しくて、そういう時、ジャッキの名前を口にするだけでココロがふわんと幸せになった。 ジャッキは言ってたな。 ____自分の方がアナタを想ってる、 ____好きで好きでたまらない、 って。 ちがうよ。 ウチ、言ったでしょう? お互いに大好き同士でも、ウチの方がずっとずっと大好きなんだ。 だってジャッキはウチの初恋だもの。 初恋の人と結婚出来たウチはすごく幸せだ。 八年間、逢えない代わりの毎晩のおしゃべり。 たわいのない内容で、話の途中で何度も「愛してる」と言い合った。 ジャッキは仕事でどうしても連絡が入れられない時、ウチが待ちぼうけにならないように、前もって事情を話してくれたの。 風邪を引いてる時だって連絡をくれたよ。 ゴホゴホ咳をして辛そうなのに「マジョの声を聴いたら治るんだ」って言ってくれた。 ウチが光道(こうどう)の仕事で大変なコトがあれば、愚痴っていいよっていっぱい話を聞いてくれた。 最後には必ず「マジョが頑張ってるコトは、自分がちゃんと知ってるよ」って言ってくれるんだ。 それから、それから、いつもはガマン出来るのに、たまに、自分をコントロールできないくらい逢いたくなる時があってさ『淋しいよ、逢いたいよ』とウチが泣けば「辛い想いさせてごめんな。自分も逢いたいよ、」って気持ちを分かってくれたんだ。 ジャッキはいつだって優しい。
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