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「マジョ……?」
ジャッキの声に我に返る。
そうだ、ウチ、ジャッキの名前を呼んだクセに、そのまま考え込んでしまった、黙り込んでしまった。
『ごめん、考え事しちゃってた』
ウチがそう言うと、「何を考えてたの?」でも「マジョの話が聞きたいな」でもなく、
「ごめんな、」
そう謝ったんだ。
『なにが……”ごめん”なの?』
既視感だ。
これと同じコト、八年前にも聞いたな。
夜の草原で、星空の下で、ジャッキはウチを抱きしめて甘くとろけさせたんだ。
あの時ウチは、男の人にあんなコトをされたのが初めてで、ドキドキして、なにも考えられなくなって、だけどちっともイヤじゃなくて、ジャッキにならもっと抱きしめてもらいたいって思ったの。
だから、”ごめん”って謝られたのがイヤだった。
だから、イジワルして”なにがごめんなの?”って聞いたんだ。
でも今日は違う。
意地悪で聞いてるんじゃない。
本当に知りたいの。
ねぇ、なにが”ごめん”なの?
大倉のコト?
悪霊騒ぎにウチを巻き込んだコト?
それとも、”もう逢えない”って言ったコト?
ジャッキは少し淋しそうに、そしてとても辛そうな顔でこう言った。
「自分は……マジョを裏切った。アナタが好きでたまらないのに、アナタが大事でたまらないのに、その気持ちは今だって変わらない。なのに弥生の事も好きになってしまった、アナタを深く傷付けたんだ」
憔悴してる。
こんな顔したジャッキを視るのは、現世に帰る直前以来だな。
視てると胸が締め付けられる。
そんなのいいよ、大丈夫だよ、そう言ってあげたいけど、傷付いたのは本当だ。
浮気はしない、ウチしか愛せないと言ったのに、ウチ以外の大倉も好きになったんだもの。
先週、声だけでそれを聞いた時、ウチは大泣きして、ひたすらジャッキを責めたんだ。
どうしてウチを好きなまま大倉も好きになってしまったのか、その理由をちゃんと聞かず、言い訳する機会も与えず、ただただ子供のように泣き喚いたの。
ジャッキは軽い気持ちで女の人と遊んだりしない。
そんな器用なコトが出来るならこんなコトにはなっていない。
そんなの少し考えれば分かるのに……ああ、違うな。
これは今だから分かるんだ。
実際に現世に来て、たくさん考えさせられたから。
ジャッキは大倉を好きになったけど、この先付き合うつもりもなく、今までに抱き合った事もないと言った。
ただ、想い想われ、その気持ちをお互い知ってしまっただけだと言っていた。
だったら、いっそ黙っていてくれたら良かったのにって思ったよ。
どうしてワザワザウチに話すの?
普段、自分のコトなんて何も話してくれないのに。
こういうコトは話すの? って腹が立った。
なのに……なんでウチに話したか。
その意味が分かった時、ウチはもっとパニックになった。
ジャッキはさ、抱き合った事もない大倉を本気で好きになっていた。
だけど、ウチのコトも愛してて、ウチに内緒で大倉と付き合う事は出来なくて、だからといって想いを隠したまま、ウチに嘘をついたまま、今まで通り、何事もなかったように夫婦でいる事も出来ないと考えたんだ。
二人を同時に好きになって、どちらにも嘘をつかない、そのかわり二人のどちらも諦める……そんな極端な決断したんだよ。
だから、ジャッキはウチに全部を話したの。
自分にはマジョと逢う資格はない、もう逢えない、そう伝える為に。
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