第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

201/222
前へ
/2550ページ
次へ
『ん……ウチ、悲しかったよ。ずっと上手くいってると思ってたのに、突然「もう誰にも嘘はつきたくない、マジョに逢う資格は自分にはない、だからもう逢えない」そう言われてパニックになったの。なんで? どうして? って思った。でも……今なら分かるよ。ウチにとっては”突然の話”だったけど、ジャッキにとっては”ずっと抱えてきたコトの結論”だったんだよね』 最初に聞いた時はパニックになったけど、今は……なんとかダイジョウブだ。 泣かないように、感情的にならないように、落ち着いて話さなくちゃ。 ジャッキの気持ちが知りたい、知れば辛いかもしれないけど、でもやっぱり思うよ。 今回のコト、ジャッキだけを責めるのは簡単だ。 だけどそれじゃあ何も解決しない。 このままジャッキの言う通り、もう逢わない、もう別れるというなら話は別。 だけどウチ、そんなのはイヤなんだ。 ウチはジャッキが好きで好きで仕方がないんだもの。 生者と死者の夫婦は、現世と黄泉で離れ離れ。 顔を視て話す事が出来ない。 それが出来たなら、きっとこんなにすれ違うコトはなかったよ。 でも今、顔を視て話してるんだ。 こんな機会めったにない。 諦めたくない。 ____めでたしめでたしのお伽話には続きがある、現実がある、 現実なんかに負けたくないよ。 現実なんかに引き裂かれたくないよ。 ____愛は成就よりも継続が難しい 本当にそうだ。 一緒にいるのが長くなれば、その分いろんな事がある。 好き、愛してる、だけでは続かない。 二人の愛が大事なら、壊したくないのなら努力が必要だ。 ウチ、ジャッキと一緒にいられるなら、なんだってするよ。 「マジョは優しいな、こんな自分を理解しようとしてくれる。自分には勿体ない奥さんだよ。だけどね、」 『ジャッキ!』 言いかけたコトバを遮った。 だって何を言おうとしたのか分かっちゃったんだもの。 「だけどね、」の後は「もう一緒にはいられない」だ。 そんなの言わせないから。 死者と生者はお互い触れ合うコトは出来ない。 それは分かってるけど、それでもウチは、ジャッキの唇に自分の唇を重ねたの。 キスの感触はないけど、それでもすごく近くて、ジャッキの息遣いがわかるようで、ウチからキスするなんてすごく恥ずかしいけど、どんな言葉よりも一回のキスの方が気持ちが伝わる気がしたんだ。 唇を離した時、ウチもジャッキも泣いていた。 泣きながら視つめ合っていた。 大きな手はウチの頬にあてられて、ウチの涙を拭おうとしてくれてるんだって分かったら、よけいに涙が溢れてしまって、好き、大好きって気持ちが込み上げるの。 「マジョの髪……星の色がローズピンクだ。アナタは今でも自分を愛してくれるの? こんなに優しいマジョを裏切ったのに、アナタ以外の(ひと)も愛してしまったのに、」 ジャッキ、すごく泣いてる。 こんなに泣いてるのを視るのは初めてで、拭ってあげたくて、ジャッキの目に、頬に、何度も何度もキスをした。 泣き止んでくれたらいいのに、ジャッキ、笑ってくれたらいいのに。 『キライになんかなれないよ。初めて抱きしめられた時から、ずっとジャッキが好きなんだもの。ねぇ、ジャッキ。ウチも悪かったんだよ。ジャッキが現世で辛い思いしてるの、気付いてあげられなくてごめんね。ウチばっかり甘えててごめんね。ウチ、もっとジャッキの気持ちが知りたいよ。弱い部分も知りたいよ』
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2366人が本棚に入れています
本棚に追加