第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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◆ 途中何度も唇を重ねながら、ウチとジャッキはたくさんの話をした。 ウチのいない現世が辛くてたまらなかった事も、その辛い気持ちをウチに話してしまいたかったけど、一度愚痴を吐いてしまえば、きっと毎晩ネガティブな話をしてしまいそうで怖かったとも話してくれた。 『ジャッキが辛いなら、毎晩だって愚痴を言って良かったのに』 ウチがそう言うと、 「……ん、きっとマジョはそう言ってくれると思ったよ。でもね、自分の辛さは現世にいる限り解決のしようがないの。アナタにまた逢えるまで、アナタを抱きしめてキスをするまで続くんだもの。自分の命がいつ終わるのか分からないのに、それまでマジョに聞かせ続けるなんて出来ないよ。最初はよくてもいつかそのうち負担になる。我慢して聞いてるうちに、いつか自分からの連絡が嫌になるんじゃないか、そう思うと怖かった。だったら最初から、一切愚痴は言わないと決めたんだ」 ジャッキはそう答えて苦く笑った。 『……んも、ジャッキは考え方が極端だよ。ウチが本当に嫌になるかどうかも分からないうちから、愚痴は一切言わないと決めるコトないのに。極端はそれだけじゃない。もう嘘をつきたくないから、大倉も好きになってしまったから、だからウチともう逢えないとか、これだって極論だよ』 ウチは呆れてしまった。 ジャッキは年上で、いつだって優しくて落ち着いていて、ウチなんかよりぜんぜん大人だと思っていたのに。 考え方に極端な所があって、しかも厄介なコトに一度決めたら曲げない頑固さがある。 「それは……」 口籠るジャッキは、ウチから目線を逸らして前を向いてしまった。 本当に困った旦那さんだ。 ジャッキにこんな一面があるなんて知らなかった。 ウチの知ってるジャッキじゃない。 でもね、知るコトが出来て良かったって思うよ。 こういう困った所も愛おしい、もっともっと色んなジャッキに逢いたいよ。 そう、これからもずっと。 話は尽きなかった。 「現世に来るのに、どうやって弥生に口寄せを頼んだの?」 ジャッキにそう聞かれて、ウチは用事があってたまたま黄泉に来ていた平蔵と仲良くなったコト、その平蔵に頼んで大倉に口寄せを依頼したコトを簡単に説明した。 『ウチ、本当はジャッキに逢いにだけ来たんじゃないの。一番の目的は大倉に会う為で、ウチの旦那さんを返してよって文句を言いに来たんだ。だから、現世に着いてすぐ大倉に怒鳴っちゃったし、いっぱい責めたんだ……ウチ……酷い事しちゃったよ』 大倉は、ウチに怒鳴られた事も責められた事もジャッキに言わなかった。 きっとウチがジャッキに嫌われないように庇ってくれたんだと思う。 あの子も損な性格だ。 そーゆーコト、真っ先に告げ口する子だっているというのに。 そういえばジャッキのコトも庇ってたな。 ____アタシがしつこく追い回したんだ、 ____ジャッキーは被害者だよ、 って。 ジャッキはウチの話を聞いて、少し考えてから呟くようにこう言った。 「…………弥生は自分を庇っていただろう?」 ああもう……胸がチクチクする。 こういう時、大倉がどんな反応をするか、言わなくてもジャッキには分かるんだね。 『……うん、庇ってたよ』 「そうか……ごめんな。マジョは優しい子だ、むやみに誰かを責める子じゃないよ。それに弥生だって自分を庇う必要はないんだ。それなのに二人にそんな事をさせてしまった……みんな自分が悪いよ。自分がいる限り、これからだってずっと二人に負担をかけるんだ、」 あ……良くないな、この流れ。 たくさん話していい雰囲気だったのに、急に空気が重くなる。 ジャッキは自分を責めている。 また極端な考えに引っ張られてしまうんじゃないかな。
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