第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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「話は半分わかった。やっぱりジャッキーは自分で自分を滅そうとしてたのか。ふざけんな、クソッタレ。で、もう半分がわからない。マジョリカの言う”マザースター”っていうのと”黒の電塊”ってのはなんなの?」 きっと黄泉の国に関係するものだとは思うけど、先代からも聞いた事がない。 アタシの頭には大量のハテナマークが飛び交っていた。 マジョリカはアホ面で質問するアタシを馬鹿にするでもなく、簡単かつ丁寧に教えてくれた。 マザースター。 主成分を電気で成り立たせる巨大な惑星。 その大きさは木星の約十倍。 黄泉の国とそこに住むすべての死者を支える母なる星。 死者の霊体(からだ)は電気信号の集合体だけど、電気で構築されているのはなにも死者だけではない。 黄泉の国にある街も、食べ物も、飲み物も、花も、木も、すべてが同様だ。  それらを構築するには、素材となる電気が必要で、電気が無ければ、死者も黄泉の国自体も消滅してしまう。 その大事な電気を有り余るほど与えてくれるのが、マザースターだというのだ。 『地球にとっての太陽みたいな存在だよ。マザースターから降り注ぐ電気はウチら死者にたくさんの恩恵をもたらしてくれる。でもね、それだけの力を持つ母なる星は、その力が脅威にもなるの。もしも人が太陽に降り立てば、一瞬の間もない速さで身を焼き溶かしてしまうでしょう? マザースターも同じ。もし死者が星に降り立てば、電気で構築された霊体(からだ)は、マザースターに分解され吸収されてしまう。そうなれば霊体(からだ)はもちろん、魂も消滅する。魂がなくなるという事は自我もなくなり、その死者は、この世から、この宇宙から、完全に消えてしまうんだ』 説明を聞いたアタシはゾッとした。 そんな所に逝こうとしてたのか…… 人はいずれ死ぬ、だけど死んですべてが終わる訳じゃない。 自我を保ったまま死者となるんだ。 死んだ後は黄泉の国で暮らすも良し、生まれ変わっても良し、いずれにしても魂はずっと生き続ける。 だけどジャッキーは、その魂ごと滅そうとしてるんだ。 ああ、だからか。 昨日の戦いの中、コイツの中の悪霊を剥がそうとした時、魂を削っても構わないから剥がす事を優先しろと言った。 ジャッキーは、どうせ自分を滅してしまうのだから、そのくらいのリスクは構わないと思ったんだんだろう。 ああ、腹が立つ。 マザースターの事はこれで解った。 なら”黒の電塊”は? まず電塊とはなにか。 これはマザースターに点在する電気の塊で、色は二種類、赤と黒。 透明で色が深く、見た目は水晶に近いという。 ”赤の電塊”は見た目の美しさと”永遠の愛の象徴”と呼ばれる事から、愛のお守りとして人気があるというのだが、マザースターにしか存在しない為、実際に持っている者はまずいない。 その希少な電塊を贅沢にもピアスに再構築したものを、ジャッキーとマジョリカは片耳ずつに分け合って着けている。 これは二人の共通の友人が、危険を冒してまでマザースターに取りに行ってくれたんだそうだ。 『”黒の電塊”はね、赤とはまた全然違うの。実用性のあるもので、死者のトラウマ治療に使われているんだ』 「……トラウマ治療?」 『うん』と頷いたマジョリカは、固く目を閉じるジャッキーを視て、小さく溜息をついた後にこう続けた。
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