第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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なだめてもすかしても、どう説得してもジャッキーは黙ったままで、どうにもこうにもならなかった。 昔からそうだ。 コイツは頑固で一度決めたら、中々気持ちを曲げてくれない。 それからしばらくアタシに声を荒げられ、マジョリカに大泣きされるジャッキーは、ここにきてようやく言葉を発してくれた。 「……ごめんな、知ってしまえばこうなるよな。……わからないように逝こうと思ってたんだ。だから目一杯悪霊を取り込んだ。十体も取り込めば、最後の仕事は完遂出来るだろうし、それによって命を終わらせられると思った。二人には仕事中の事故だと思わせて……そりゃあ少しの間は辛いだろうけど、自分がマザースターに逝けば、後は”黒の電塊”を使うだけだって。なのに……助けられた。完全に予想外だ。だって誰が想像出来る? 黄泉にいるはずのマジョと、マジョと一緒にいるはずのない弥生が揃って助けに来るなんてさ」 疲れたような、それでいて脱力したような顔。 ずっと黙ったままだったけど、時間はかかったけど、ジャッキーはやっと答えてくれた。 アタシはそれが嬉しくて「ありがと」って言おうと思って「もうバカなコト言うな」とも言おうと思って、口を開きかけて、だけどその時、アタシのしゃがれた声じゃなくて、もっと綺麗な声が、先に、そう、アタシよりも先に____ 『……じゃ、じゃあ、あ、あきらめてよ、だ、だって、もうバレちゃったもん、ウチにも大倉にも、ジャッキがたくらんでたコト、みんなバレちゃったもん、だからマザースターなんて逝かないで、ウチらジャッキを止めるよ、あたりまえだよ、だって忘れたくない、はなれたくない、消えてほしくない、やだよ、うぅ……やだ……うぅ……やだぁっ!』 そう言って火が着いたように泣き出すマジョリカ。 途端ジャッキーは悲しむ妻に駆け寄って、触れる事は出来ないけど、華奢な霊体(からだ)に腕をまわし「ごめんな、ごめんな」と何度も言いながら、抱きしめるように包み込んだ。 腕の中のマジョリカは泣きながら顔を上げ、 『ジャッキ……ジャッキ……お願い、どこにもいかないで、傍にいて、ウチを独りにしないで……ジャッキ、ウチに言ったでしょ、千年たっても一緒にいようって、ウチはずっとそのつもりだよ、だって愛してるの、ジャッキがいなくなったらウチはウチじゃなくなっちゃう、ねぇ、傍にいて、ウチをウチのままでいさせて、」 心からの願いだ、それが痛いほど伝わってくる。 ジャッキーは目を真っ赤にして、泣く子をジッと見つめていた。 そして……ああ、 細い腕がゴツ太い首に絡みついた。 目の前で、マジョリカの唇がジャッキーのガサガサに荒れた唇に重なる。 ____千年たっても一緒にいよう、 そっか、 アンタはマジョリカにそう言ったのか、 じゃあ、約束は守らなくちゃな、 アタシは音を立てないように、そっと立ち上がった。 抜き足で、息を止めて、鼻の奥が痛むを我慢しながら、振り返らないで部屋を出た。 ん……きっとアイツは大丈夫。 あんなになって泣くマジョリカを視て、ジャッキーはもうバカな事を考えないはずだもの。 あとはアタシが消えれば、すべてが元通り。 これでいい。 だいじょうぶ、つらくない。 だってアタシも言われたんだ。 ____一生好きでいろ って。 アタシはアタシで勝手に約束をまもるよ。 だからだいじょうぶ。
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