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なだめてもすかしても、どう説得してもジャッキーは黙ったままで、どうにもこうにもならなかった。
昔からそうだ。
コイツは頑固で一度決めたら、中々気持ちを曲げてくれない。
それからしばらくアタシに声を荒げられ、マジョリカに大泣きされるジャッキーは、ここにきてようやく言葉を発してくれた。
「……ごめんな、知ってしまえばこうなるよな。……わからないように逝こうと思ってたんだ。だから目一杯悪霊を取り込んだ。十体も取り込めば、最後の仕事は完遂出来るだろうし、それによって命を終わらせられると思った。二人には仕事中の事故だと思わせて……そりゃあ少しの間は辛いだろうけど、自分がマザースターに逝けば、後は”黒の電塊”を使うだけだって。なのに……助けられた。完全に予想外だ。だって誰が想像出来る? 黄泉にいるはずのマジョと、マジョと一緒にいるはずのない弥生が揃って助けに来るなんてさ」
疲れたような、それでいて脱力したような顔。
ずっと黙ったままだったけど、時間はかかったけど、ジャッキーはやっと答えてくれた。
アタシはそれが嬉しくて「ありがと」って言おうと思って「もうバカなコト言うな」とも言おうと思って、口を開きかけて、だけどその時、アタシのしゃがれた声じゃなくて、もっと綺麗な声が、先に、そう、アタシよりも先に____
『……じゃ、じゃあ、あ、あきらめてよ、だ、だって、もうバレちゃったもん、ウチにも大倉にも、ジャッキがたくらんでたコト、みんなバレちゃったもん、だからマザースターなんて逝かないで、ウチらジャッキを止めるよ、あたりまえだよ、だって忘れたくない、はなれたくない、消えてほしくない、やだよ、うぅ……やだ……うぅ……やだぁっ!』
そう言って火が着いたように泣き出すマジョリカ。
途端ジャッキーは悲しむ妻に駆け寄って、触れる事は出来ないけど、華奢な霊体に腕をまわし「ごめんな、ごめんな」と何度も言いながら、抱きしめるように包み込んだ。
腕の中のマジョリカは泣きながら顔を上げ、
『ジャッキ……ジャッキ……お願い、どこにもいかないで、傍にいて、ウチを独りにしないで……ジャッキ、ウチに言ったでしょ、千年たっても一緒にいようって、ウチはずっとそのつもりだよ、だって愛してるの、ジャッキがいなくなったらウチはウチじゃなくなっちゃう、ねぇ、傍にいて、ウチをウチのままでいさせて、」
心からの願いだ、それが痛いほど伝わってくる。
ジャッキーは目を真っ赤にして、泣く子をジッと見つめていた。
そして……ああ、
細い腕がゴツ太い首に絡みついた。
目の前で、マジョリカの唇がジャッキーのガサガサに荒れた唇に重なる。
____千年たっても一緒にいよう、
そっか、
アンタはマジョリカにそう言ったのか、
じゃあ、約束は守らなくちゃな、
アタシは音を立てないように、そっと立ち上がった。
抜き足で、息を止めて、鼻の奥が痛むを我慢しながら、振り返らないで部屋を出た。
ん……きっとアイツは大丈夫。
あんなになって泣くマジョリカを視て、ジャッキーはもうバカな事を考えないはずだもの。
あとはアタシが消えれば、すべてが元通り。
これでいい。
だいじょうぶ、つらくない。
だってアタシも言われたんだ。
____一生好きでいろ
って。
アタシはアタシで勝手に約束をまもるよ。
だからだいじょうぶ。
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