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「おまえバカなの? こうなる前に電話しろよ。それと玄関の大量の靴はなに?」
ジャッキーは悪態をつきながらアタシの口に飴玉を放り込む。
アタシは「なんで来たんだ」って文句のひとつも言ってやろうと思ったのに、お腹の空きすぎと、逢えた嬉しさで何も言えない。
そんなアタシを横目に、コイツは持参した大きな袋から次々にタッパーを取り出してはテーブルの上に並べていった。
タッパーの数は、えっとイチニイサンシイ……んーいっぱい!
全部を並べ終わると、今度は端から順に蓋を開け、途端、美味しそうな匂いが立ち上り、アタシのおなかはギュルギュルと鳴り出した。
「なんだこりゃあ! めちゃくちゃ美味しそうじゃんかーっ!」
タッパーの中身は色々あって、アタシの大好きな唐揚げでしょー、エリンギの肉巻きでしょー、ジャーマンポテトでしょー、スコッチエッグでしょー、豚肉と小松菜のあんかけでしょー、ユーリンチーでしょー、ほうれん草とひじきのサラダでしょー(鉄分じゃーん!)、巨大おにぎりいっぱいでしょー、でもってデザートの杏仁豆腐もあるっ!
「すごーい! すっごい! すっごい! すっごい! これもしかして、」
「そうだ、自分が作った。悪いな、マジョの口寄せで霊力を持ってかれてるんだろ? だからその分、補給出来る高カロリーなものをたくさん持ってきた。好きなだけ食べろ。食べきれなかったら冷蔵庫に入れておけばいい」
ちょっ!
ジャッキー、あんた最高にイイ男だよ!
たとえ前回、ハッキリ言葉にしなくても、アタシ達はサヨナラをしたはずなのに(そりゃ目の前でキスしてるの見たらねぇ)、それがたったの二週間でどうして逢いに来ちゃうかな? だとしても。
たとえこの二週間、逢ってもないし電話だってしていないのに、なんでアタシが体調不良でド貧血だって知ってるの?
それさぁ、またウサギにログインして勝手にアタシを霊視してただろ? と突っ込みたくなったとしても。
それでも!
めちゃくちゃお腹が空きすぎて、死線がチラホラ視えてたアタシにとっては救世主だよ!
「ニヤニヤしてないで早く食べろ。顔が真っ白じゃないか」
ゴツイ両手でアタシの頬を包み込み「身体も冷えてる」と渋い顔。
そのジャッキーの右頬には、目の下から顎にかけての傷が生々しく残っていて……
「頬の傷……やっぱり跡になっちゃいそうだな、」
あの時、アタシの身体が動けば、コイツにこんな傷は付けさせなかったのに。
ズーンと気持ちが落ち込む。
ジャッキーはそんなアタシに「渋いだろ、惚れてもいいぞ?」と片目を瞑った。
もう惚れてるよ、口には出さないけど、えへへと笑ってごまかして、
「いただきまーす!」
ガッツリご馳走を…………平らげた。
「あははは、まさかコレ全部食べられるとは思わなかったよ。弥生はいっぱい食べてえらいな、」
空になったタッパーをキッチンに運びながら、ジャッキーは楽しそうに笑っていた。
ああ、コイツがこんな風に笑うのを見るのは久しぶりだ。
すごく嬉しい。
「ごちそうさまでした! めちゃくちゃ美味しかったよ、ありがとう! なんか霊力が漲ってきた!」
「それなら良かった。貧血はどうだ? まだフラフラするか?」
ジャージャーと水を流す音に紛れて、アタシを心配するジャッキーの声に酔いしれた。
このまま時が止まればいいのに。
「ううん、フラフラしない。もう大丈夫。洗い物までさせてごめんな。手伝いたいんだけど、お腹が苦しくて……あはは、なんか恥ずかしいな」
「しばらく横になってろ。床じゃダメだぞ、背中が痛くなる。ちゃんとベッドで横になれ」
ん、と小さく返事をして、アタシはモゾモゾとベッドの上に転がった。
嬉しいなぁ、幸せだなぁ。
だけどマジョリカは、コイツがアタシの部屋に来てるコト知ってるのかな?
ちゃんと言ってあるのかな?
ちょっと心配だ。
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