第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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◆ 「おまえバカなの? こうなる前に電話しろよ。それと玄関の大量の靴はなに?」 ジャッキーは悪態をつきながらアタシの口に飴玉を放り込む。 アタシは「なんで来たんだ」って文句のひとつも言ってやろうと思ったのに、お腹の空きすぎと、逢えた嬉しさで何も言えない。 そんなアタシを横目に、コイツは持参した大きな袋から次々にタッパーを取り出してはテーブルの上に並べていった。 タッパーの数は、えっとイチニイサンシイ……んーいっぱい! 全部を並べ終わると、今度は端から順に蓋を開け、途端、美味しそうな匂いが立ち上り、アタシのおなかはギュルギュルと鳴り出した。 「なんだこりゃあ! めちゃくちゃ美味しそうじゃんかーっ!」 タッパーの中身は色々あって、アタシの大好きな唐揚げでしょー、エリンギの肉巻きでしょー、ジャーマンポテトでしょー、スコッチエッグでしょー、豚肉と小松菜のあんかけでしょー、ユーリンチーでしょー、ほうれん草とひじきのサラダでしょー(鉄分じゃーん!)、巨大おにぎりいっぱいでしょー、でもってデザートの杏仁豆腐もあるっ! 「すごーい! すっごい! すっごい! すっごい! これもしかして、」 「そうだ、自分が作った。悪いな、マジョの口寄せで霊力(ちから)を持ってかれてるんだろ? だからその分、補給出来る高カロリーなものをたくさん持ってきた。好きなだけ食べろ。食べきれなかったら冷蔵庫に入れておけばいい」 ちょっ!  ジャッキー、あんた最高にイイ男だよ! たとえ前回、ハッキリ言葉にしなくても、アタシ達はサヨナラをしたはずなのに(そりゃ目の前でキスしてるの見たらねぇ)、それがたったの二週間でどうして逢いに来ちゃうかな? だとしても。 たとえこの二週間、逢ってもないし電話だってしていないのに、なんでアタシが体調不良でド貧血だって知ってるの? それさぁ、またウサギにログインして勝手にアタシを霊視してただろ? と突っ込みたくなったとしても。 それでも! めちゃくちゃお腹が空きすぎて、死線がチラホラ視えてたアタシにとっては救世主だよ! 「ニヤニヤしてないで早く食べろ。顔が真っ白じゃないか」 ゴツイ両手でアタシの頬を包み込み「身体も冷えてる」と渋い顔。 そのジャッキーの右頬には、目の下から顎にかけての傷が生々しく残っていて…… 「頬の傷……やっぱり跡になっちゃいそうだな、」 あの時、アタシの身体が動けば、コイツにこんな傷は付けさせなかったのに。 ズーンと気持ちが落ち込む。 ジャッキーはそんなアタシに「渋いだろ、惚れてもいいぞ?」と片目を瞑った。 もう惚れてるよ、口には出さないけど、えへへと笑ってごまかして、 「いただきまーす!」 ガッツリご馳走を…………平らげた。 「あははは、まさかコレ全部食べられるとは思わなかったよ。弥生はいっぱい食べてえらいな、」 空になったタッパーをキッチンに運びながら、ジャッキーは楽しそうに笑っていた。 ああ、コイツがこんな風に笑うのを見るのは久しぶりだ。 すごく嬉しい。 「ごちそうさまでした! めちゃくちゃ美味しかったよ、ありがとう! なんか霊力(ちから)が漲ってきた!」 「それなら良かった。貧血はどうだ? まだフラフラするか?」 ジャージャーと水を流す音に紛れて、アタシを心配するジャッキーの声に酔いしれた。 このまま時が止まればいいのに。 「ううん、フラフラしない。もう大丈夫。洗い物までさせてごめんな。手伝いたいんだけど、お腹が苦しくて……あはは、なんか恥ずかしいな」 「しばらく横になってろ。床じゃダメだぞ、背中が痛くなる。ちゃんとベッドで横になれ」 ん、と小さく返事をして、アタシはモゾモゾとベッドの上に転がった。 嬉しいなぁ、幸せだなぁ。 だけどマジョリカは、コイツがアタシの部屋に来てるコト知ってるのかな? ちゃんと言ってあるのかな? ちょっと心配だ。
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