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◆
「弥生、お茶飲むか?」
洗い物を終えたジャッキーが、急須片手にアタシに聞いた。
「飲みたい」
何から何までありがたや。
キッチンから部屋に戻ったジャッキーは、手慣れた様子でお茶の葉を急須に入れた。
そしてポットからお湯を入れて蒸すコト数分。
コポコポと熱いお茶が注がれて、カップからはホワホワと雲のような湯気が立った。
ああ、いい香りだ。
「いただきます」
ベッドの上で身体を起こす。
ジャッキーはアタシがお茶を飲むところを優しい顔で見つめてる。
なんだろ、この、お正月とハロウィンとクリスマスが一度にやって来たようなスペシャルさは。
ジャッキーが助けに来てくれた、また顔が見れた、楽しく話せてる。
すごく幸せ、すごく嬉しい。
だけど、あんまり調子にのるなよ、アタシ。
コイツが部屋に来たのは、アタシが貧血で食べ物もなくて困っていたから。
過度に喜ぶと後でめちゃくちゃ辛くなるからな。
救助の人が来てくれた、くらいに思うのがちょうどいいんだ。
「なぁ、ジャッキー。アンタがアタシのトコに来てる事、マジョリカにちゃんと話してきたか? まさか内緒で来たんじゃないだろうな」
気になっていたコトを思い切って聞いてみる。
もし、内緒で来たんだとしたら、すぐにでも帰さなくちゃダメだ。
「心配するな、ちゃんと話してある。というより、弥生が体調悪いのに食べる物がなさそうだって話したら、すぐに行ってやれってマジョが言ったんだ。まぁ、言われなくても来たけどさ」
そうなんだ……じわじわとマジョリカの優しさが沁みてくる。
と、同時にホッとした。
内緒じゃなくて良かった。
アタシのせいで喧嘩になったら悲しいもの。
「マジョリカは優しいな」
ポソっとアタシが独り言ちると、
「ああ、自慢の奥さんだ」
ジャッキーはデレた顔で惚気た。
あーあーもう、幸せそうに笑っちゃって。
良い顔だ。
きっとこの二週間、二人はたくさん話をしたんだろうな。
顔を視て、本音で、思いやりを持ち寄って。
今のジャッキーは、”自分を滅さなくてはならない”という、強迫観念にも似た負のオーラがすっかり消えていた。
目に力がある。
もう……大丈夫だな。
コイツはこの先迷ったりしない。
たとえマジョリカが黄泉の国に帰って、また離れ離れになっても、二度と希死念慮に憑りつかれる事はないだろう。
……
…………
そうだ、そうなれば、完全にアタシは必要ない。
アタシがいなくても、ジャッキーだけで希死念慮だろうが、強迫観念だろうが追い払う事が出来るはずだもの。
もう逢わないって思ってたのに……こうして笑って話が出来ると欲が出てしまう。
これから……友人の一人としてなら付き合えるかなぁ……?
もちろん、マジョリカが嫌じゃなければだけど。
ああ、でもやっぱり無理かなぁ。
だってアタシはジャッキーを愛してて、友人なんて思えない。
一生好きでいるんだもの、この気持ちは変えたくても変えられないよ。
この身が亡びるまで……いや、アタシってしつこい性格だからな。
亡びても気持ちは残るかもしれない。
うわぁ……コワ……亡びてもって、我ながら引くわ。
「……、……、よい、弥生、」
あ、ジャッキーがなんか言ってる。
すっかりアタシの世界に浸ってた。
「ごめん、考え事してたわ。なに?」
「ずっと呼んでたのにポーっとしてたぞ。弥生、本当はまだ貧血なんじゃないのか? また横になれよ、傍にいてやるから」
オイ、ヤメロ。
そーゆーコト言うな。
アンタはもう吹っ切れたかもしれないけど、アタシはまだまだ大好きなんだ。
そんなコト言われたら、調子に乗る。
好きだって口走ってしまうかもしれない。
だから、あんまり優しくするな。
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