第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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「おまえの体調と胃袋が心配でココに来たんだけど、話もあったんだ。だが……まだ貧血が治らないなら、また今度にするか」 アタシの首まで布団をかけて、ベッドの横に座るジャッキーは短くなった髪を撫ぜ続けている。 今日はずいぶんと甘やかすなぁ、アタシの体調が良くないからかなぁ。 髪……気持ち良い、なんだか寝ちゃいそうだ。 んーでも寝ないよ。 だってさ、気になるじゃんか。 「話ってなに? 貧血はだいぶ良い、心配ない。だから話してよ」 ここまで言われて、また今度って言われたら、気になりすぎて貧血悪化するっつーの。 「そうか? 大丈夫なら話すよ。でも心配だから弥生は寝たままな」 「……過保護だなぁ。でもいいや。だって楽ちんだ」 話ってなんだろう。 もしかして、アレかな。 これからはマジョリカと幸せになります、今までどうもありがとう、もうこれで逢う事もないだろうけど元気で、とか、そういうヤツかな? 最後のご挨拶的な。 だとしたら……キツイ。 でも覚悟しなくちゃ。 元々、二週間前のあの日、今度こそもう逢わないって決心したんだもの。 最後に助けてくれて、こんなに優しくされてからのサヨナラは辛いけど仕方がない。 コイツの口からはマジョリカラブばっかりが溢れてるし、アタシから卒業なんだ。 「マジョとたくさん話したんだ」 「うん、」 「愚痴もね、聞いてもらったよ。この八年、恰好つけて絶対に愚痴は言わないと決めてたのに……マジョに言われたんだ。『強い所も弱い所も、ぜんぶ合わせてジャッキなの。それを視たからって嫌いになるはずないでしょう?』って」 「そうか、マジョリカは良い子だなぁ」 「ああ、すごく気が楽になったよ。マジョの前で気負いすぎていたんだ。あまりにも好きすぎて、良い夫でありたいと思い続けていた。無理してた。自分のキャパをはるかに越えていたんだ」 「ん、そっか」 「あとね、考え方が極端すぎると怒られた。一つの常識に囚われすぎたらダメだとも。……黄泉の国はね、色んな星の死者がたくさんいるんだ。視た目も、文化も、生前の地位も、なにもかもが違う。それでも、一旦黄泉の住人になったら誰もが平等で、お互いの違いを尊重して、違いを楽しんで、良い所はどんどん真似して、そうやって仲良く楽しく暮らしてるんだ」 「へぇ、そんなにみんな違うの? つーか”色んな星の死者”って、もしかして宇宙人ってコト……? え、ホントに……? そか……宇宙人って本当にいるんだ……」 「あはは。自分も黄泉に逝った時、同じコト思ったよ、宇宙人ってホントにいるんだー! って。黄泉はね、色んな人達がいるんだ。たとえばコニ星の猫族は九つの命を持ってるし、ダイテ星のカンガル族は戦闘民族だ。妖艶な鬼族もいれば、見た目でいえばデコトラ、ドラゴン、ブリキ、チョコレイト、空飛ぶシャチ……それと、マジョと通信していたバラカスという男、アイツは巨大なパンダちゃんだ。視た目はものすごく可愛いんだが酷い毒舌でね。ああ、でも弥生とは気が合うかもな。ちなみに黄泉の国で使われている同時翻訳システム、前に話したの覚えてるか? それを造ったのも彼だよ」 「すっげー! そうなんだ! バラカスってスゴイんだな、つーか、声だけ聴くとめちゃくちゃ渋い美中年ってイメージだったよ。まさかパンダだったとは……にしても、宇宙人もイロイロいるんだなぁ。猫族とかエイミーちゃんが会ったら泣いて喜びそうだわ」 アタシは黄泉の住人達の話を夢中になって聞いていた。 だってまさかのバラカスはパンダだった、まさかのリアル宇宙人、個性豊かってレベルじゃない。 「マジョとは弥生の事も話したんだ」 え? アタシの事も……? 一体どんな話をしたの……?
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