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「おまえの体調と胃袋が心配でココに来たんだけど、話もあったんだ。だが……まだ貧血が治らないなら、また今度にするか」
アタシの首まで布団をかけて、ベッドの横に座るジャッキーは短くなった髪を撫ぜ続けている。
今日はずいぶんと甘やかすなぁ、アタシの体調が良くないからかなぁ。
髪……気持ち良い、なんだか寝ちゃいそうだ。
んーでも寝ないよ。
だってさ、気になるじゃんか。
「話ってなに? 貧血はだいぶ良い、心配ない。だから話してよ」
ここまで言われて、また今度って言われたら、気になりすぎて貧血悪化するっつーの。
「そうか? 大丈夫なら話すよ。でも心配だから弥生は寝たままな」
「……過保護だなぁ。でもいいや。だって楽ちんだ」
話ってなんだろう。
もしかして、アレかな。
これからはマジョリカと幸せになります、今までどうもありがとう、もうこれで逢う事もないだろうけど元気で、とか、そういうヤツかな?
最後のご挨拶的な。
だとしたら……キツイ。
でも覚悟しなくちゃ。
元々、二週間前のあの日、今度こそもう逢わないって決心したんだもの。
最後に助けてくれて、こんなに優しくされてからのサヨナラは辛いけど仕方がない。
コイツの口からはマジョリカラブばっかりが溢れてるし、アタシから卒業なんだ。
「マジョとたくさん話したんだ」
「うん、」
「愚痴もね、聞いてもらったよ。この八年、恰好つけて絶対に愚痴は言わないと決めてたのに……マジョに言われたんだ。『強い所も弱い所も、ぜんぶ合わせてジャッキなの。それを視たからって嫌いになるはずないでしょう?』って」
「そうか、マジョリカは良い子だなぁ」
「ああ、すごく気が楽になったよ。マジョの前で気負いすぎていたんだ。あまりにも好きすぎて、良い夫でありたいと思い続けていた。無理してた。自分のキャパをはるかに越えていたんだ」
「ん、そっか」
「あとね、考え方が極端すぎると怒られた。一つの常識に囚われすぎたらダメだとも。……黄泉の国はね、色んな星の死者がたくさんいるんだ。視た目も、文化も、生前の地位も、なにもかもが違う。それでも、一旦黄泉の住人になったら誰もが平等で、お互いの違いを尊重して、違いを楽しんで、良い所はどんどん真似して、そうやって仲良く楽しく暮らしてるんだ」
「へぇ、そんなにみんな違うの? つーか”色んな星の死者”って、もしかして宇宙人ってコト……? え、ホントに……? そか……宇宙人って本当にいるんだ……」
「あはは。自分も黄泉に逝った時、同じコト思ったよ、宇宙人ってホントにいるんだー! って。黄泉はね、色んな人達がいるんだ。たとえばコニ星の猫族は九つの命を持ってるし、ダイテ星のカンガル族は戦闘民族だ。妖艶な鬼族もいれば、見た目でいえばデコトラ、ドラゴン、ブリキ、チョコレイト、空飛ぶシャチ……それと、マジョと通信していたバラカスという男、アイツは巨大なパンダちゃんだ。視た目はものすごく可愛いんだが酷い毒舌でね。ああ、でも弥生とは気が合うかもな。ちなみに黄泉の国で使われている同時翻訳システム、前に話したの覚えてるか? それを造ったのも彼だよ」
「すっげー! そうなんだ! バラカスってスゴイんだな、つーか、声だけ聴くとめちゃくちゃ渋い美中年ってイメージだったよ。まさかパンダだったとは……にしても、宇宙人もイロイロいるんだなぁ。猫族とかエイミーちゃんが会ったら泣いて喜びそうだわ」
アタシは黄泉の住人達の話を夢中になって聞いていた。
だってまさかのバラカスはパンダだった、まさかのリアル宇宙人、個性豊かってレベルじゃない。
「マジョとは弥生の事も話したんだ」
え? アタシの事も……?
一体どんな話をしたの……?
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